Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story3〜

Business Hotel

出張の多いビジネスマンにとってビジネスホテルはつかの間のオアシス。時には同僚と飲みに出かける拠点であり、時には出張先での残務整理する特別オフィスであり、時にはリラクゼーションのための休息の場となる。
では皆さんが初めてビジネスホテルを利用したのは何歳のとき?大抵の場合は社会人になってからと返答するだろう。若しくは学生時代に旅行先で宿泊したなどの答えもあるだろう。
私が
出張先のビジネスホテルでこんなことを考えているのにはわけがある。それは私がこのビジネスホテルを初めて利用したのが中学校一年の時、今から三十年前だからだ。

1981年、僕は中学三年生になった。今年、神戸ではポートピア81という博覧会が開催されるらしい。その昔、大阪で開催された万博にはまだ小さくて連れて行ってもらえなかったし、1975年の沖縄海洋博にも遠くて 行けなかった。大阪万博に行った父がうらやましくて、僕はどうしてもポートピア博覧会に行ってみたくなった。ついでに行ったことのない大阪と神戸の街を見てみたかった。国鉄が発売開始した『青春18きっぷ』を使えば交通費は八千円ですむ。往復夜行普通列車を使えば関西での宿泊は二泊だけでいい。小学生時代から親戚の家まで一人で電車に乗っていっていたし、九州の 祖父の家まで一人で行ったこともある僕は、絶対にポートピアに一人で行こうと決めていた。ところが父のこの一言にはちょっと口ごもってしまった。
「お前、どこに宿泊するんだ?」
確かに今までは親戚の家に泊めてもらえたから良かったけど、関西に親戚はいない。そこで僕が思いついたのは時刻表の『宿泊施設一覧』だった。 地図や乗り物が好きな僕はいつも交通公社の時刻表を読みふけっていたから、巻末に宿泊できる施設の一覧がいっぱい書いてあることも知っていた。
「この中から選べばいいんじゃない?」
僕は父に時刻表を見せて答えた。
「お前な、中学生が一人で宿泊させてくれるわけないだろ。」
「そんなの聞いてみなくちゃわかんないじゃん。」
とにかく僕は電話をかけまくることにした。でも現実は厳しい。時刻表の巻末リストの宿はどれも観光用の旅館やリゾートホテルで、とても僕のためた小遣いでは泊まれそうにない。
「マジかよ・・・」
僕はちょっと諦めかけた。そこで目に留まったのが『ビジネスホテル協会提携ホテル』のリストだった。しかもホテルに直接電話するのではなく、予約センターに電話をして前もってクーポンを駅の旅行センターで受け取ればいいらしい。僕は早速『ビジネスホテル協会』に電話してみた。夏休み中だったのでどこのホテルも混雑しているみたいだったけど、大阪市内のビジネスホテルに空きがあったので予約を頼むことにした。電話で住所と電話番号と氏名を聞かれたけど、年齢は聞かれなかった。父はホテルを予約できたことにちょっとビックリしていたみたいだった。翌日、駅の旅行センターで名前を言って料金を支払い、クーポンを受け取った。いよいよ旅の準備が整った。

夜行各駅停車で関西入りした初日、ポートピア博覧会で未来的なパビリオンをたくさん見て僕は大満足だった。大阪万博を見に行ってきたときの父がたくさん写真を撮っていたので、真似をして僕も全てのパビリオンを写真に収めようと思っていた。初日で見られたのは約半分。明日もたくさん写真を撮ろうと思った。
僕は意気揚々とホテルに向かった。阪急梅田駅近くのビジネスホテルに到着した僕はフロントでクーポンを出した。ところが・・・フロント係のお姉さんが
「お客様、歳はおいくつですか?」
と聞く。僕は正直に
「十四歳です。中学三年生です。」
と答えた。するとお姉さんは
「しばらくお待ちください。」
と言って奥に入ってしまった。僕は何がなんだか分からずに待っていた。すると奥から『支配人』という名札をつけたおじさんが現れて僕に言った。
「すみませんが当ホテルでは高校生以下の一人宿泊は受け付けていないのです。」
「でも、ちゃんとクーポンを買っていますし、宿泊予約のときはそんなこと何もおっしゃらなかったですよ。」
「協会のほうの落ち度だと思うのです。申し訳ありません。」
「そんなこと言われても、僕は今日の宿泊場所がなくなってしまいます。どこかに野宿しろとでも言うんですか?きちんと二泊分のお金も払ってあるし、クーポンも持ってきているし、僕にはなんの落ち度もない。」
僕はちょっと頭にきておじさんに食ってかかった。単純に高校生以下だからって宿泊拒否とは何事だよ・・・。僕はおじさんの目をじっとにらみつけた。
しばらく僕と目を合わせていたおじさんは
「わかりました。お客様は家出ではなさそうだし、きちんと予約も頂いている。子ども扱いして申し訳ありませんでした。」
と深々と頭を下げた。その時のおじさんは『さすがプロの支配人』という感じでカッコよかった。

ようやくチェックインして自分の部屋に入った僕はなんとなく気分が高揚していた。初めてビジネスホテルに一人で泊まるということもあるが、何よりも支配人が自分を一人前に扱ってくれたことが嬉しかった。
僕は早速部屋に備え付けられている『宿泊のご案内』という本を読んでみた。外出の時には鍵をフロントに預けること、浴衣でロビーに行ってはいけないこと、非常口の確認をかならずすること、部屋はオートロックなので部屋を出るときには鍵を忘れないようにすること、食事の案内などなどいろいろ書いてある。 「ホテルって結構約束事があるんだな」と思ったりした。
部屋には小さいけどトイレとお風呂が一緒になった部屋(ユニットバスというらしい)がついていて、テレビもラジオもあった。そして何よりも『僕だけの空間』ということがとても新鮮で嬉しかった。
その日、僕は深夜番組を見ながら夜更かしした。ここには誰も文句を言う人がいないから。そして今夜は僕がこの部屋の主だから。

翌日、鍵を持ってフロントへ向かった。鍵をフロントのお姉さんに渡し
「行ってきます。」
と言うと、お姉さんはお辞儀をして
「行ってらっしゃいませ。」
と丁寧に挨拶してくれた。ポートピア博覧会以上にビジネスホテルに泊まるのが楽しいと思った。

 

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