Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story11〜

White Knight

山間部を走る高速道路はちょっとしたワインディングが楽しめる。全てのコーナーを通常ならば100km/hで巡航できる規格で作られているのだから、その道路を攻め込もうとするとそれなりの決意が必要だ。もちろん5速にスタックしたまま走るなどということはしない。マニュアルギアボックスの4速や時には3速を使ってのめまぐるしい操作は、クルマ好きな連中にとっては格好の腕試し。走るためだけにここを走行している僕もその クルマ好き連中の一人と言えるだろう。

ある日、僕が愛車のアルファロメオ156を駆って 延々と上りが続くワインディングを攻め込んでいると、前方に白い156が現れた。僕の愛車と同じマニュアルギアボックスを積んでいるグレードだ。のんびり走っているように見えた白い156を僕は軽く左側から追い越した。僕のクルマを見て気になるならついてくるに違いない。このクルマに乗ってから、同じクルマと遭遇すると妙に気持ちが高揚する。相手もおそらく同じ気持ちなのだろう。僕の赤い156とランデブーを望んでくるドライバーは多かった。ところがその白い156はちょっと様子が違った。僕が抜き去ると同時に猛然と加速を開始し、僕の車 と並走し始めた。
「ランデブーしたいだけなんだからそんなに熱くなるなよ。」
と思いつつ、僕もギアを二段落として猛然と加速した。二台は登坂車線のある高速道路を三車線使って、前方に現れる車は全て左右から並走して抜き去り、バトルを繰り広げた。久しぶりに全く同じクルマ同士で対決するバトルに僕の気持ちも高揚していた。V型6気筒2500cc、最後のアルファ純正エンジンを持つこの156はお互いに6速あるギアボックスを使い切って互角のバトルを続けた。
やがてワインディングが終了し平野部の直線に到達したとき、前方にパーキングエリアの表示が現れた。僕たちはどちらともなくハザードランプを2回点滅させてパーキングエリアへと滑り込んでいった。
クルマを並べて止め、ドアを開くと高原の風が木の香りと共に吹きぬけ、そしてその風の香りの中にちょっと甘い香りを感じた僕は白い156に目をやった。
「なかなかいい走りするじゃない!」
白い156の窓を開けてこちらを見つめていたのは髪の長い女性だった。
「あ、同じクルマだったんでつい熱くなってしまいました。すみません。それにしても女性なのによくあのクルマを乗りこなしていますね。ペダルの配置が長身のイタリア人向きなので、ドライビングポジションが取りにくいのではないですか?」
彼女は口元をちょっと緩めて僕に微笑むとゆっくりと優雅な仕草でクルマから降り立った。僕よりもちょっと年上・・・おそらく5歳くらい上に見える彼女は、すらりとした長身の背をぐっと反らせてこちらを見つめた。薄手の白いニットシャツにジーンズ。足にはドライビングシューズ、
「私のこの身長なら問題ないわよ。みんなは『男みたいな大女』と言うけど。」
と彼女は笑った。
「あなたも高速のワインディングが好きで走っているクチでしょ。」
「そうなんですよ。特にこの車に乗ってからはエンジンパワーに頼るでもなく、自分のコントロールだけで精一杯走ることが出来るこの区間にいつも来てしまいます。」
「私と同じ趣味ね。どうしても国産だと『乗せられている』という感じがしてしまうの。アルファだと『自分が駆っている』という感触が素晴らしいわ。」
「同感ですね。ハイパワーのドイツ車や日本車だと車の性能だけで自分が上手くなった気がしてしまいますが、アルファだと本気で頑張らないとクルマに負けちゃいますし、何より 限界に達するようなバトルに勝てない。」
似たもの同士・・・か?
二人は同じことを考えていたらしく、声を上げて笑った。それからお互いにクルマのメンテナンスのこと、ドライビング時に気をつけること、ちょっと癖のある挙動など、経験談で盛り上がった。彼女はヨーロッパの小型車が好きで、今までにルノー、シトロエン、フィアット、ランチアなどを乗り継いでいるらしい。
ひとしきり話が続き、気がつくと一時間ほどが経過していた。
「そろそろ行かなきゃ。ちょっと飲み物を買ってくるわ。」
彼女はそういい残すとサービスエリアの奥へとリズミカルに歩き去っていった。残された僕はふと昔のことを思い出していた。そう、あの日のことを・・・。
ぼうっとしていた僕は彼女が戻ってきたのに気がつかなかった。ふと気づいて彼女に視線を向けた僕に向かって、彼女は缶コーヒーを1本ほうってよこした。慌てて僕は受け取ろうとしたが、情けないことに落としてしまった。
「だらしないなあ〜。」
彼女は快活に笑った。
「昔の話なんですけどね。」
僕は路面に落ちた缶コーヒーを拾い、プルトップを空けて彼女にかざしながら五年前の話を切り出した。

「五年ほど前
、アルファを買って間もない頃にこの高速道路でプジョー106ラリーに追い回されたことがあったんですよ。まだアルファを乗りこなしていない僕は、上りでも下りでも全然その106に歯が立たなくって、結局コーナーごとに離されて行ってしまったんですよ。確かに106ラリーは軽量なラリーベースマシンだけど、1300ccのエンジンだから上りで負けるのは悔しかった。その106のことは 今でも忘れないんです。でもその106が頭から離れない理由がもう一つあるんです。ナンバープレートが希望ナンバーで1107だったんですよ。1107はどう読むんだろうって ずっと考えていたら、後日『イイオンナ』なんじゃないか?って気がついたんですよ。だから是非そのクリオにもう一度会いたいと思ってここをよく走っていると言うのもあるんです。 その106の持ち主が『イイオンナ』なのかどうか確かめたいと思って。」
黙って私の話を聞いていた彼女はちょっと真面目な顔をして尋ねた。
「そのクリオ、色は白じゃなかった?」
そしてそっと僕の肩に手を置くと囁いた。
「私のクルマたちはいつも私のホワイトナイトなの。白夜のほうじゃなくて白馬の騎士。白馬の騎士に守られているのならばいつまでも『イイオンナ』でなくちゃね。」
髪からのいい香りにちょっと緊張して 真横にある彼女の顔のほうを向くことが出来なかった僕は缶コーヒーを持ったまま硬直してしまった。
「また会いましょう。」
彼女はそういい残すとドライバーズシートにするりと乗り込み、一気にエンジンをかけてスタートして行った。走り去る白い156のナンバープレートには「1107」の文字が並んでいた。
 

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