Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story34〜

Good Morning

クルマを車検に出した。私は毎日車で通勤している。代車は手配しなかったので、1週間ほどはクルマがない生活を送らなければならない。自宅から会社までは約2qほど。片道30分弱はかかる。月曜日の朝から歩いて会社に行くのはちょっと憂鬱だった。そんな1週間が始まった。

会社までの道のりの途中にちょっとした公園があった。普段はクルマで一気に通過してしまうので気が付かなかった。秋晴れの空に空気が澄んでいた。ちょっと早めに自宅を出たので、私は寄り道してみることにした。公園の奥のほうに色とりどりの花壇が見えたから・・。近寄ってみると白、紫、赤、ピンクのさまざまな色の花が満開になっていた。私は全く花の名前を知らない。恥ずかしながらこの花の名前がわからない。花と言えば桜とチューリップ、向日葵くらいしかわからない。でも、この花を見られただけで何となく得した気分になった。クルマの車検と言うシチュエーションがなければこの花に出会うことはなかったし、この花の名前を知ろうという気にもならなかっただろう。

翌日も公園に立ち寄った。私はデジタルカメラを持参していた。おそらくこの季節しか咲かないであろうこの花を画像におさめたいから・・。前日と同じように秋晴れの青空に花はしっかりと太陽を見据えて咲き並んでいた。
「おはようございます」
私が夢中で撮影していると、私の隣にいつの間にか小学生の女の子が立っていた。私はちょっとビックリした。最近の小学生は見知らぬオジサンに自分から声をかけるなどしないと思っていたから・・・。私はちょっと気後れしながら答えた。
「おはよう。いい天気だね〜」
女の子は学校への道を急ぐでもなく私の隣にしゃがんだ。
「うん。コスモスもきれいだね」
私はこの時初めてこの花がコスモスであることを知った。この年になって小学生から物事を教えられるとは思わなかった。
「この花、コスモスなんだ。実はこの花の名前、知らなくってさ。教えてくれてありがとうね」
「え〜、おじさん知らなかったの?ダサイの!」
女の子はニコニコ笑いながら得意げに立ち上がった。
「じゃあ、学校行くね」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「行ってきます」

翌日から公園に立ち寄ってその女の子と朝の挨拶を交わすことが私の日課になった。クルマは車検から上がってきたが、毎日徒歩でゆっくりと通勤することがとても優雅な時間に思えた。そしてその女の子がいつも屈託なく「おはよう」と声をかけてくるその姿を見ることで、心が洗われるような気持ちになれた。小学校は集団登校を義務付けているはずなのだが、なぜかその子はいつも一人だった。それも気がかりの一つだった。
毎日1分ほど会話してからお互いに会社と学校へ向かう。その会話の中身は他愛ないもの。社会の授業で何を習ったとか、運動会で1位を取ったとか・・・。女の子は小学校4年生らしい。まだまだ身長も120pそこそこだし、私と並ぶと胸のあたりに頭が来る。

ある日私は思い切って女の子に聞いてみた。
「どうして君は一人でいるの?」
女の子はちょっと迷ったような顔をしていたが、やがて答えた。
「この近くには小学生いないから」
「え?」
確かに考えてみれば都会のど真ん中だ。周囲に民家は少なく、学校もかなり遠い。
「じゃあこの近くから通っているのは君だけなの?」
「うん。この先の交差点まで行ってみんなと一緒に行くんだ」
私はちょっと安心した。この子がいじめや村八分に遭っているのではないかとちょっと心配していたから・・・。少子化が進んでいるし、この近くに友達もいないのだろう。私が子供のころとは大違いだ。
「そうかあ。じゃあ近くに友達もいなくて寂しいね」
「でも、学校の帰りにみんなと遊びに行くから大丈夫!朝はオジサンに遊んでもらうから大丈夫」
女の子は屈託なく笑った。
「でも、なんで俺に話しかけたの?」
私は最初から抱いていた疑問をぶつけてみた。
「だって花が好きな人に悪い人はいないもん」
「そうか、良かった。悪い人に思われなくって!でも、気をつけなきゃいけないぞ。変な奴はいっぱいいるんだから」
「大丈夫だよ。これでもあたしはしっかりしてるんだから」
小学生と言えども、やはり女性はしっかりしているものだ。しかも「おはようございます」をしっかり言える子供はやはりしっかりしているに違いない。
「そうだよな。君は礼儀正しいし、頭も良さそうだしな」
私がそういうと、女の子はちょっと照れくさそうに笑った。
「おはよう」の一言が人の輪を広げる。そしてその一言が言える勇気がある人は人々に愛されるに違いないと私は思った。

メニューへ

inserted by FC2 system