Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story13〜

Rainbow

梅雨が明けた後の日本列島は日差しが日に日に強くなり、初夏から盛夏への変遷を果たす。
そんな時期に台風は夏を運んでくる。熱帯の暑い風をまるで定期便の届け物のように温帯地方に届けるこの悪魔も、季節の営みには欠かせない。
なぜなら台風が来なければ夏も来ないから。台風が来なければ秋も来ないから。

960ヘクトパスカルの超大型台風が日本列島を縦断したこの日、彼はじっと家に閉じこもっていた。
外は暴風雨が吹きすさび、窓には容赦なく熱帯の雨が叩きつけ、一歩外に出ようものなら全身濡れそぼってしまうこの日に外へ出ようという愚か者はいないだろう。
TVの音も風雨の音にかき消され、自己主張しているのは台風のみなのだ。

インターネットの天気予報では彼の住む地域を台風が過ぎ去るのは午後5時であることを伝えている。彼は思った。
「今日はせっかくの休みを棒に振ったな。まあ、こんな日もあるさ」
・・・と
午後5時、吹き返しの風が吹きすさぶ外の景色を眺めていた彼の視界にふと光るものがよぎった。
西の空にわずかな雲の切れ目が生じ、陽の光がそこから差し込んでいた。
「まもなくこの風はやむ」
確信した彼は変わり行く天候を撮影するために外へ出てみることにした。
家から一歩出ると、そこには台風一過特有のまとわりつくような湿気と、むっとするような暑さが充満し、一瞬彼を後悔させた。
「出てくるんじゃなかったな」
彼は徒歩で移動することをあきらめ、快適なエアコンの効いた車に乗り込むことにした。

彼の思い通り、西の空の雲の切れ目は見る見る広がり夕陽が顔をのぞかせる。
南の空には青空が広がり、北の空には厚い雲が居座っている。
これぞ季節の変わり目。彼は時間を共有できたことに満足していた。

ほどなくして近くの公園に降りたった彼の耳に、子供たちの声がこだました。
[虹!]
朝からの雨と急激な気温の上昇、そして西からの陽光が完全に調和し、都会ではなかなか見ることの出来ない自然のショーがそこには展開されていた。
「時には台風もステキなプレゼントをすることもあるじゃないか」
ボソッとつぶやいた彼の声は、吹き返しの風に乗って流れた。
ふと振り返った彼の視線の先に子供連れの男性がニッコリ微笑んでいた。
彼の口がパクパクしているが、彼の声は風上には流れてこない。
彼は勝手に解釈した。
「あなたもそう思いましたか?」
と問われていると・・・。
大きくうなずき返した彼の反応に、男性も大きくうなずいて答えた。

彼にとってこの台風の一日は真夏の始まり。
「初め良ければ全て良し」
彼は満足して車に乗り込んだ。

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