Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story48〜

Necessary

僕の彼女はとかく無駄なことが好きだ。買い物をするときにもぶらぶらといろいろなところを歩き回り、気に入ったものが見つかると予定にないものまで買い込んでしまう。旅行に行ってもわざわざ遠回りの道を選んでみたりする。計画的に物事を進めようとする僕とは正反対と言っていい。しかしその正反対の性格が僕たちを結びつけているのも事実だ。無駄なことをする彼女を止める役がいないと彼女は暴走しそうだし、いつも杓子定規に事を進めるために遊び心がなくなってしまう僕の日常に変化を与えてくれるのも彼女だからだ。

ある日、リビングで念入りに足爪のネイルを塗っていた彼女に僕が尋ねた。
「あのさ、足の指って基本的に外に出さないじゃない?今は秋だし、靴下も靴も履くだろ?夏のシーズンならサンダル履くからわかるんだけど、秋に足のネイルって意味あるの?」
彼女は足先から目をそらさずに答えた。
「女の子の化粧にはすべて意味があるのよ。男の人にはわからないと思うけど」
「まあ、自己満足みたいなものなんだろうな。男には分からん」
「いやいやお兄さん、そんなことないよ。自己満足ではなく・・・」
今度は僕のほうに顔を向けておどけたような表情をした彼女が続けた。
「すべては明日のために!」
天に指を差しながら明るく答える彼女に僕は思わず噴き出してしまった。
「明日?何かあったっけ?」
「出かけるって言ってたじゃん。下町散歩するんでしょ?」
「ああ。行くよ。それと関係あるわけ?」
「あるのあるの。いいから明日のお楽しみね」
会話を打ち切った彼女は再びネイルに没頭し始めた。

翌日、僕が目覚めると既に彼女の姿はベッドになかった。いつも朝寝坊の彼女にしては珍しい。
「おはよう。今日は早いじゃ・・・」
目をこすりながらリビングに向かうと、そこには和服姿の女性が佇んでいた。もちろん彼女なのだが、寝起きと言うこともあって僕は一瞬「誰?」と思ってしまった。
「どうしたの?」
彼女は振り返りながらこう言った。
「見返り美人」
僕は思わず噴き出した。本当にいたずら好きな彼女だ。
「今日は下町に行くじゃない。だからTPOを江戸時代に合わせるのだ!」
僕は昨晩の彼女の言う意味がようやく分かった気がした。
「なるほど。草履履きになるから素足でネイルと言うわけか。それが必然っていうことなんだね」
しかし彼女の反応は違った。
「まだ甘い!それだけではないのだ。後の続きは現地でのお楽しみ〜」

僕は意味が分からないまま、予定通り彼女と東京の下町に向かった。上野、入谷、浅草あたりは今でも江戸情緒が町並みに残っていて、彼女の和服姿もその景観にマッチしていた。そして通り過ぎる人たちの視線も、彼女の和服姿にひきつけられているようだ。立ち寄った屋台のおじさんやおかみさんは必ず彼女に「おまけだよ!」と何かをつけてくれる。外国人観光客からは記念写真を撮らせてくれと言われるような状況に、正直僕の鼻も高かった。

「意味分かった?」
彼女は僕に尋ねた。
「なるほどね。ここに来るにはこういうカッコをすると気分良くなれるわけだ」
「そう。だから必然的に和服を着る。必然的に素足になる。必然的にネイルもする」
「でも、今回のはわかったけど君のいつもの行動はどう見ても無駄が多いけどなあ」
彼女は下から僕の目を覗き込んだ。
「ん?そんなことないよ。買い物は無駄が多いかもしれないけど、旅先での寄り道はガイドブックにも載っていないものを発見したりするし、美味しいものに出くわしたりする。そこに寄り道しなければ経験できない何かがある。だから無駄なんかないんだよ。人生に無駄なんて一つもない。だから人生は面白い」
この時僕は彼女が妙に大人に見えた。彼女は人生を豊かに過ごしているな、と。そして僕は彼女が横にいることでその豊かさを享受している。
僕は思わず彼女を抱きしめてこう言った。
「いつまでも一緒にいよう」

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