Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story15〜

Vacation

そのリゾートは半島の先端にある。
都市から車で約1時間、こんな辺鄙なところになぜ?というほどの大規模なリゾートマンション。
ここには仕事をリタイアした老夫婦、つかの間の休暇を過ごす家族連れ、そして夢の空間を楽しむ若者たちが集う。
街の雰囲気はイタリアのリゾート。建造物にも町並みにも、樹木さえもが全て人によって創造された空間。
太平洋から吹き付ける海風はリゾートを訪れる人々にひとときの幸せを与え、彼らはまた喧騒の都会へと帰ってゆく。
ある者はこのままリゾートに住み付き、毎日の生活をその空間に求める。

彼はこの夏に彼女を連れてそのリゾートに降り立った。
今年の短い夏のひとときをこのリゾートで過ごすことにした彼らであったが、彼女はその豪華施設に圧倒されていた。
「ここ、本当に日本なの?」
夢見心地で彼女はつぶやいた。
昔、カレンダー写真で見たことのあるギリシャのミコノス島を思わせる白い建物と海の青さ、空の青さの対比が絶妙だった。
イタリア南部の都市を模して建設されたこの空間に、彼らのAlfaRomeoは見事に調和し、その赤がさらに景色を引き立たせていた。

彼は34階の部屋へと彼女をいざなった。
超高層リゾートマンションの最上階であるこの部屋は、遠く湾の向こうの半島まで見渡せる。
バルコニーに出た彼女は、眼前の同じ高さに飛来したカモメ、潮の香りを運んでくる風にしばし時間を忘れた。
しばらくそのまま過ごした彼女に彼は声をかけた。
「どう、気に入った?」
ゆっくりと振り向いた彼女の長い髪が潮風に吹かれてなびく
「風が最高よ!」
彼は大いにうなづき、手にした缶ビールを彼女にほうった。
「我々のバケーションに乾杯」

リゾート地の中心にあるレストランで夕食を終えた彼らは、再びバルコニーで夜のリゾートを満喫していた。
レストランで口にしたイタリアンワインの心地よさも、彼らの気分を高揚させていた。
外の風が肌寒く感じられる頃、彼女は残念そうに言った
「この空間も借り物、バケーションは長くは続かないのよね」
彼はゆっくりと彼女の顔を見た。
「ずっと過ごしてみたい?」
彼女は答える
「ここから通勤してもいいくらいね」
「本当に?」
「だって車で1時間でしょ。都会に住んでいても通勤時間は1時間よ」
「確かにそうだ」
「せめて毎晩が仕事から解放され、バケーションのように気分転換されるなら1時間なんて平気よ」
彼は無言でバルコニーを出た。
彼女は怪訝な顔をして彼の後姿を追った。
彼はバゲッジから書類ケースを出し、その中から封筒に入った書類を1通彼女に渡した。
「なに?」
封筒の中には1通の契約書が入っていた。
「この部屋の契約書だよ。僕の名義になっているらしい」
冗談のように彼は言った。
「さっきの言葉、本気にしていいのかな?」
彼女はあっけにとられてこう言った。
「はい」
彼はもう1通の書類を彼女の前に置いた。
「僕たちのバケーションは永遠に続くんだよ。今日がその初日」
目の前に置かれた婚姻届に彼女は答えた。
「計画的犯行よ!」
彼はそっと彼女の頬に手を触れてこう言った。
「いや、計画性のないドラマの入り口だよ」

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