Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story16〜

Dramatic Airport

デトロイト発成田行きの直行便は片道12時間の長旅となる。
その長旅に彼は少々いらだっていた。厳しいスケジュールでのビジネストリップと、「禁煙」という環境、エコノミーシートの窮屈な空間・・・。
機内食はお世辞にもおいしいとはいえないシロモノが登場し、アテンダントも愛想がない。
さらに、西に向かう便の場合は夜間飛行がない。つまり外はずっと昼間だから寝ることさえ体が反応してくれない。
映画の上映のために窓のシャッターを閉めるよう放送が入り、彼は仕方なく片手にバドワイザーを持ってまどろんでいた。

飛び立ってから約6時間でアラスカ上空に到達する。
西へ向かう航空機は偏西風の影響を最小限にするために、一度北極方面へ向かう。
従ってデトロイトからはカナダ上空、アラスカ上空、サハリンの東を経由して北海道を通過することとなる。

映画の上映がひと段落し、彼は何気なくシャッターを開けた。
「まあ、きれい」
ジャンボジェット機の窓際3列席の一番左に搭乗していた30歳くらいの女性がこちらを見ていた。
言われてみれば雲が眼下に鎮座し、空は一面の青空。しかも北極ということで空気が澄んでいる。
ジェット機の窓には水滴が付着して外気の寒さを想像させる。
オーロラらしき虹色のカーテンが彩を添えていて、まさに幻想の世界がそこにあった。
彼女からしてみれば、思わず声が出たというところであろうか?
でも、彼は彼女に向かって言った。
「アラスカ上空ですね。さすがに空気が澄んでいます」
「外の気温は何度くらいなのでしょうね」
「多分マイナス30度とか」
「道理で機内が寒いと思ったわ」
「そうですね。エアコンが効いているはずなのに、北極上空ではさすがに寒くなる」
「眠れないんですか?」
「ええ、外が明るいというのはどうも」
「私もです。行きのデトロイト行きは夜間飛行でしょ。だからよく眠れるんですけど」
「おかげでビールの本数だけが増えます」
彼女はくすくすと笑った。
「お仕事ですか?」
「はい。ほとんどとんぼ返りの出張ですが・・・」
「私も仕事なんですけど、何度乗ってもこの退屈な時間は飽きてしまいます。ほとんどの場合通路側の席を予約するので、窓の外を見たことはなかったわ」
「私は退屈な時間を癒すために、窓際の席に変更してもらったのですよ」
彼女はにやっと笑ってこう言った。
「この景色を独り占めするおつもりなのね?」
彼はすかさず切り返した。
「独り占めにはならなかったけど」
二人は顔を見合わせて笑った。
キャビンアテンダントがゆっくりとやってきて二人にこう言った。
「Excuse me sir. Please be quiet.]
「Sorry」
二人はほぼ同時に答えると、再び顔を見合わせてくすくす笑った。
「一つ席をずれませんか?そうすれば小声で話しても聞こえるし、笑う声も小さくてすむ」
彼は提案した。彼女は黙って一つ右の席に移動してこう言った。
「旅の恥は掻き捨てというけれど・・・。思わず私が『きれい』と言ったことでこの長旅が楽しくなりそうね」
彼はニッコリ笑ってこう言った
「いやいや、僕としてはアラスカまでの6時間を大変損した気分だ。もっと早くに話しかけていればよかった」
「でも・・」
彼女は続けた。
「6時間前から貴方と話し込んでいたら、アラスカ上空のこの景色はもしかしたら見なかったかもしれないわよ」
「確かに!」
二人は再び窓の外に目を向け、北極圏の空を堪能した。
アームレストに置いた彼の手の上から、彼女はゆっくりと手を重ねてこう言った。
「映画が流れ始めたから窓を閉めないと」
彼はシャッターを閉じて彼女の方へ向き直った。
「映画が見たいの?」
彼女は首を振り、こう言った。
「あと6時間、もっと貴方のことが知りたいの」
機内にはまた映画が流れ始め、軽い寝息があちこちから聞こえていた。
二人は手を握って語り合った。6時間後の別れは彼らにとって別れではないことを確信しながら。

成田空港・・・出会いと別れのDramatic Airport・・・今日の彼らにとっては出会いのAirport
 

メニューへ

inserted by FC2 system