Bloody's Tea Room Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ 2018/02/18 15:32更新
当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。 読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください。
〜Story17〜
Summer Holiday
会社勤めをしていると、なかなか日常を脱することが出来ない。 長い休暇を過ごすやり方さえ忘れてしまうような日常への没頭は、人の思考回路を固着させ、自由な発想を妨げてしまう場合も多い。 長期休暇に何をするか? 彼は大いに悩んでいた。おそらく何もしないでゴロゴロしているだけでも休暇というものはあっという間に終わってしまうことを彼は知っていた。 焦って何かをしなければならないこともないが、せっかくの自分の時間をどうやって使うべきなのか? 答えは自分しか出すことは出来ない。 彼は思考することをやめた。 「なんとかなるさ」 彼は愛車フィアットバルケッタの幌を上げ、夏の強い日差しの中へとにかく出てゆくことにした。 [こいつ(車)が教えてくれるかも] やがて高速道路に乗り、ノンストップでガソリンがなくなるまで走り続けた彼は、自宅から約400km離れた地方都市の直前まで来ていた。 サービスエリアで地図を確認した彼は、この近くに有名な温泉郷があることを知った。 「なんとかなるじゃないか」 日差しはさらに強まり、午後のひとときは気温36℃を超える熱波にさらされていた。 その熱波は彼の日常を洗い流し、殺菌消毒しているかのような心地よささえ与えてくれた。 暑く焼けたバルケッタのノブをつかみ、エンジンを始動させた彼は次のインターに向かって一気に加速した。エアコンもつけず、一杯の風を受けて、前方を見つめ、そして自分だけの静寂を感じながらっ ・・・。 彼はやがてひなびた温泉郷の一軒宿にたどり着いた。 観光ガイドにもなく、宿の看板がかろうじて温泉宿であることを知らせているこの宿に何故か目がとまった。宿の前ではそこの女将というべき女性が玄関の掃除をしている姿が目に入った。 [今晩、泊めていただけますか?] [はい、喜んで。他に一組のお客様がおりますので、お部屋が小さい方しか用意できませんが] [結構です] 玄関で宿帳に記入しようとした彼の目に、今日のもう一組の泊り客の名前が飛び込んできた。 [まさか・・・・彼女なのか?] 彼は宿帳に書かれた同級生の名前を見つめながら女将さんに尋ねた。 [あの、もしかしてもう一組というのは私と同じくらいの年頃の女性では?] [はい、そうですけど、観光に出かけるそうで今はお部屋におられません。お知り合いならあとでご案内します] 彼は微笑んだ。自動販売機で買ったビールを2本持って部屋に入ると、まず1本を空けて飲みながらあけていないもう1本に乾杯した。 バルケッタがくれた偶然という名の夏の休日に・・・。
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