Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story20〜

Moon & Eye

高原の夏は短い。初夏の陽射しが照りつけてから燃えるような紅葉のシーズンまでがあっという間に過ぎ去ってゆく。
高原の夏はその寒暖の激しさから例年のように人々が集う。
そして今年も、その短い夏のある 一日がやってくる・・・。

彼女は毎年、この季節に高原へ出かける。
湖のほとりにあるこのイタリアンレストランは、彼女の日常を癒し、深い安らぎに包んでくれる空間。
このレストランは彼女にとってバカンスの主役なのである。

夏の夜のこのレストランは、ある週末だけ大人の時間を楽しむ人々で活気づく。
レストランのガーデンにはステージが用意され、ボサノバのリズムが鳴り響く。
ヴォーカルのハスキーな声は森の中の木々にこだまし、ギターの調べは水面を震わせ、サックスは空間を震わせる。

観客の拍手も夏の虫たちの鳴き声も彼女の耳に届くことはない。
彼女の思考は完全にステージと一体化し、自分の心の安らぎを自分自身で感じている。
そして周囲の景色は全てモザイクのようにぼやけ、ステージに集中することによってこの世の邪念ンを追い払い、子供の心に帰った澄み渡る感覚が彼女を支配していた。

ステージがクライマックスに差し掛かる頃、彼女はふと見つめられているような感覚を覚えた。
途端に周囲の景色が焦点を結び、彼女の目に飛び込んできた。
視線を感じたもの、月・・・。
ステージの上から雲ひとつない夜空に君臨する月の姿は、この演奏のクライマックスを祝福しているかのように神々しく輝いている。
まるで彼女を見つめ、励ましているかのように・・・。彼女はふと微笑んだ。

彼女はこの時、後姿に目を向けるもう一つの月の存在を知らない。
月と彼女、ステ−ジが一体となり、この夜のクライマックスに向かう時、彼はシャッターを押した。
ステージより長く、月よりも長く、彼女を見つめていた彼が、この夜にたった一回自ら行った行動。

彼女は突然のフラッシュに驚きつつもゆっくり振り向いた
「月だけではなかったのね」
彼は言った
「月はあなたを前から見ることが出来るのに、僕はあなたを後ろからしか見ていない。それは不公平だと思った」
彼女はちょっと睨むような顔をしながらこうささやいた
「前からでも横からでも好きなだけ見て。但し、この夏のバカンスが終わっても見続けることを約束して」

彼らは来年の夏も月が二人を祝福してくれることを願った
 

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