Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story23〜

Lady's Finger

カウンターは人の心が絡み合う複雑な世界。
隣の客が何を考えているのか分からない。
カウンターの向こうのバーテンダーも自分は空気の存在であることを保とうとする。
一人でカウンターで飲む気持ち?それは各自が自覚すればよいこと。人それぞれの思いが渦巻く。
一つだけいえること!それはカウンターで過ごす一人客は皆どこかに寂しさを持っている。
そんな寂しさを癒すために彼らは必ず自分を最高に引き立たせる仕草を忘れない。
それが精一杯の自己主張であるから。

彼は隣のスツールにふと目を向けた。香水の香りに誘われて・・・。
スツールには優雅な仕草で女性が腰を下ろした。さりげなく片足を組みながら・・・。
彼が目を奪われたのは彼女の顔でも足でもない。タバコを持ったその指先が、芸術のように優雅な仕草を見せていたから。
彼は普段めったにカウンターでは話さない。この日ばかりは、この優雅な指先を持つ彼女と話したい衝動に駆られていた。

「あの・・・」
しばらくたってから話しかけてきたのは彼女の方からだった。
[ライターを貸していただけませんか?]
彼女の声は指先に似て優雅かつハスキーだった。
「どうぞ」
彼はジッポーを彼女の前に滑らせた。
ジッポーに指を延ばす彼女に、彼はこう言った
[ジッポーですがよろしかったですか?ごついライターなので]
[え?なぜそんなことを気になさるの?]
[実はさっきからあなたの指先が芸術のようだと思ったものですから。繊細な指先にジッポーは似合わない」
[それは誉めていただいているのかしら]
[もちろん]
二人は目を見合わせて笑った。
[実は、ライターをなくしてしまったんです。そのライターも実はジッポーです。オイルの臭いがとてもいいからいつもジッポーを使っているのです」
[ほう、女性にしては珍しい。ジッポーにも繊細な形のものがありますよ。あなたのその繊細な指に似合うものが]
[スリムタイプも好きだけれど、私はあえてこのごつい定番タイプを好みます。ミスマッチがいいでしょ」

彼はこの時、彼女がほとんど化粧していないことに気がついた。
その思考が彼女に伝わったとは思えないが、彼女はこう言った
[私は化粧をほとんどしないのです。自己主張が苦手なの。カウンターで一人で飲むのもきっと集団の中に入ると自己主張できなくなったしまうからだと思うのです。でも、ふと見たときの指先の優雅さにはちょっとこだわりがあって、マニキュアだけはつけるようにしています」
[たった一つでもこだわりを持っている人は素敵だと思いますよ。世の中にはこだわりがなさ過ぎる人が多い。とても小さなことかもしれないけど、自分の主張を一つは持っている人に私は魅力を感じます」
「それは口説かれているのかしら?」
彼女は笑ってこう言った。
[あなたのこだわりは?]
「ジッポーでなければ火をつけないことでしょうかね。実は私も先ほどジッポーをなくしまして、そのジッポーは買ったばかりなのです。それを買うまでタバコを吸わなかった」
[それは・・・こだわりというより病気ね]
笑いがひとしきり続き、彼はこう言った。
[化粧をしない『いい女』に乾杯]
[『いい女』って?」
[こだわりを持った女性はきっと『いい女』に違いない」
彼はクソ真面目にこういうと、グラスのシングルモルトを一気に飲み干した。
「さて、一緒に飲むのはこれからです」

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