Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story4〜

ゆっくり歩こう

ふと海が見たくなった。梅雨前線が北に去り、都会に本格的な夏がやってくると、アスファルトからの照り返しと無機的な都会のビルは僕を疲れさせてしまう。毎日汗だくで過ごす日常から逃れるため、僕は電車で2時間ほどの時間をかけて海岸にやってきた。

海岸沿いを歩いていても真夏の日差しは容赦なく照り付ける。爽やかな海岸のイメージとは程遠い。汗が体中から噴き出し、シャツは絞れるほど濡れていた。
「なんかイメージ違うなあ」
僕はちょっと失望していた。都会を脱出しても全然気持ちよくない。

1時間ほど海岸線を歩いた僕は、腰を下ろせる石段を見つけて休憩することにした。腰を下ろしてバッグからタオルを取り出して汗をぬぐう。あっという間にタオルは水分で重くなった。僕の息遣いも荒い。しばらくの間、僕は全身の汗をぬぐうことに集中した。

ふと、風を感じて顔を上げた。そういえばさっきから新たに汗が噴き出してくることがなくなった。そこで初めて波の音が聞こえた。打ち寄せる波、海水浴をする人たちの歓声、今まで聞こえていなかった音が聞こえてきた。そして東から西へ緩やかに風が流れている。
「気持ちいい」
潮風の香りと波の音が心地いい。さっきまで暑さしか感じていなかった僕にとってこの感覚は新鮮だった。しかしこの心地よさに何か足りないものがある。そうだ、喉の渇きだ。でも飲み物を買いに行くには動かなければならない。動けばまた汗が出る。不快な時間に戻ってしまう。何か大切なものを失うようで、僕は行動できずにいた。

ぼうっと海を眺めている僕の視線の向こうに江ノ島が見えた。入り江になっているここよりも、島の先端ならばさらに気持ちいいはずだ。そう思った僕はすぐに行動開始しようと腰を上げた。立った途端にまた汗が噴き出してきた。
「江ノ島は逃げないよ」
噴き出した汗にいらだった僕の心の中にこんな言葉が響いた。そうだ、何も焦る必要はない。
僕は立ったまま汗をぬぐうと、ゆっくりと歩きだした。そう、いつもよりもゆっくりと近くの海の家まで歩くと、そこでビールを買い求めた。喉の渇きを癒すのが先じゃないか。再び石段に戻った僕は、汗を全くかいていないことに気付いた。
「そうか、あくせく行動するから不快になるんだ」
江ノ島がそれを教えてくれたかのように感じた僕は、プルトップを引くと江ノ島に向かって乾杯した。

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