Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story28〜

Another Day

一年の中で最も穏やかな季節は?大抵の人が[春]と答えるだろう。
四季の移り変わりは早く、この穏やかな季節も桜の開花と同時にやってきて、桜の花びらと共に散り行く。
必要なのはその季節の移り変わりを常に忘れないこと。
少なくとも毎年やってくるこの季節を充分に堪能すること。
人は移り行く時間の変化に敏感でなければならない。

私はその日、最も美しい桜を見ることが出来ると信じていた。満開の、そして散り行く瀬戸際の・・・。
毎年見ることが出来るということは幸せなこと。もしかしたら殺伐としたこの世の中で来年の桜は見ることが出来ないかもしれない。
明日は何が起こるかわからない日々。そうしたひりひりした毎日を過ごす人々は、季節という自然が与えてくれる心の安らぎをもっと堪能するべきだ、と彼は思う。
「桜を見るなら夜に限る]と思っていた 彼は、深夜の桜並木をゆっくりと歩いていた。上を向いて、空を眺めて。桜は彼の予想通り、満月と対比して幻想的な姿を見せていた。
彼は自分の予想が正しかったことに満足し、深い空の色と月の明かり、桜の白さを堪能しながらゆっくりと進んだ。

突然、彼は何者かにぶつかった。前を見て歩いていなかった彼は突然のその障害物が何者であるか?まったく理解せずにただびっくりして立ち止まった。
「どこ見て歩いているのよ!]
彼女は剣のある目で睨みながら言った。
彼は間抜けにもこの時初めて自分がぶつかったのが若い女性であることに気がついた。
「すみません。あまりにも桜が綺麗だったので、前を向いて歩いていませんでした」
彼は謝った。
「上を向いてずっと歩いていたら、あなたがいることに全然気がつかなかった。怪我はありませんか?」
彼女はあきれたような顔でこう言った
「ねえ、私にぶつかったからいいようなものの、ここは車道よ。車が前からぶつかってきたらどうするのよ]
彼は即座にこう答えた
「それは・・・運命ですから仕方ない。こんな綺麗な桜を見ながら車に轢かれて死亡するのも悪くない。ただ、車の運転者に申し訳ないですね。罪のない人が私のせいで罪人になってしまう」
彼女は思わず吹きだした
「あなたって変わっているわねえ。死んでもいいくらいこの桜が見たいの?」
「ま、一度しか見られない景色ですから」
「明日も、来年も見られるじゃない」
「でも明日の桜は花がもう少し散ってしまうし、来年はこんな月と対比した桜は見られないかもしれない。」
そう言って彼は彼女の姿をまじまじと見た。
どうやら彼女は彼よりも10歳以上若く、まだ幼さが残る学生のように見えた。髪を茶色に染め、今時流行の化粧をして、そのまま渋谷に出没できそうだ。
彼女は蓮っ葉な仕草でタバコに火をつけて言った
「そうかなあ。毎年見られるというように楽観して生きたいなあ」
彼は微笑んでこう答えた
「その日に起きた出来事は二度と起きないじゃないか。現実、今日は桜を見ながら歩いていると君とぶつかった。明日だったらぶつかることもないし会うこともない。そういう毎日を大切にしたいからね。毎日を大切にしていれば、後悔する事がなくて澄む。でも、当然だけど私も毎年見たいと思っているよ。」
「今日、私とここでぶつかったことは偶然ではないと思う?」
「まあ、偶然なんだろうけどその偶然を大切にしたいね」
「じゃあ、その偶然を記念して一緒に桜見て歩こうよ]

彼と彼女は並んで桜並木を歩いた。二人とも上を向きながら。
「今日という日を大切にするということは、他の日には私と出会うことはないの?」
彼女が尋ねた。
彼はちょっとびっくりしたような顔でこう答えた
「あなたは私よりもずっと若い。私のようなおじさんと話していてもつまらないのではないかな?」
彼女はちょっと笑いながらこう言った。
「今日という偶然があったから、その時間を大切にするということ!あなたとぶつかった偶然を大切にしたいし、今日の楽しい時間を他の日にも分けてあげたい。おじさんかもしれないけど、私にとっては大切なことを教えてくれたよ」
[私も君から大切なことを教えてもらったよ。Another Dayということも考えなければならないとね」
「満月の夜は何かがあるというけれど・・・」
彼女は言葉を切った。
「ん?]
「人生で大事な何かを学んだような気がするよ]
彼女は明るく笑って駆け出した
[乾杯しに街に繰り出そう!」
彼は彼女のあとを追いかけた。桜の木の下を走りながら・・・。若返ったような気持ちに包まれて。

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