Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story34〜

Far Away


Photo by Mr.papa (Special thanks)

彼女は泣いていた。
明日、彼は旅立ってしまう。
夜が永遠に終わらなければ良いのに。朝が来なければ良いのに。

海外への5年間の転勤が決まった夜、彼らはいつものバーで語っていた。
彼女は笑ってこう言った。
「人生経験、海外での仕事なんてそうできるものではないわ。チャンスと思ってがんばって」
彼は理解を示してくれる彼女に感謝しながらも、内心複雑な心境だった。彼女はめったなことでは泣かないことを知っているが、悲しんでくれることを少しは期待していた。

いつも会うことが出来るという日常が崩れる時、彼は将来が不安だった。
彼女は5年もの間待っていてくれるのだろうか?
彼女は自分と離れることが悲しくないのか?
彼女は自分を必要としていないのか?
その晩の2人はギクシャクした雰囲気のまま過ごし、バツの悪そうな状態で帰宅せざるを得なかった。

それから1ヶ月、いよいよ明日が出発という日、彼は彼女に提案した。
「横浜までドライブしないか?」
彼女は驚いた。
「だって明日が出発でしょう。ドライブしたとしても帰ってくるには余りにも時間がないわ。大体車をどうするの?そのまま持ってゆくわけには行かないのよ」
「だからそのまま泊まる。朝早くに横浜を出る。車は処分するあてがあってね。」
彼女は彼の性格を知り尽くしていた。彼の行動力から考えても安心して任せるべきだった。
彼女は黙って彼のアルファロメオに乗り込んだ。
「さあ、最後の夜をどう演出してくれるのかしら?」
彼は笑ってこう言った
「実は何も考えていない。二人きりになれるところでじっくりと話したいだけだよ]

2人は横浜のホテルにチェックインした。
今までの思い出やこれからのことなど、部屋で2人はお互いに素直に語り合った。
彼女はこの時間が辛かった。ただ・・・永遠にこの時間が続くことも望んでいた。
やがて夜も更け、彼はこう言った。
「明日は早いからそろそろ眠ろう」
彼女はこの時、何も答えなかった。いや、答えられなかった。
「どうしたの?」
覗き込む彼の目を見ながら彼女の心はもはや自制が効かなかった。
盛り上がる涙を止めることが出来ず、彼女は彼の胸でひとしきり泣いた。
彼はただただ黙って彼女が言葉を発するのを待っていた。

やがて彼女は向き直って言った
「貴方を待っていたい。いつまでも。そんなこと言ったら貴方を束縛してしまう。私は束縛する女にはなりたくない。貴方を自由にさせたい。どうすればいいのかわからない」
彼はじっと目を見つめ、こう言った。
「エンゲージリング、渡すということは束縛することになるよね?でも、僕の代わりにこいつを置いてゆくよ。それで君を束縛することでおあいこっていうのはどう?」
泣いている彼女の右手に、彼はゆっくりと一つのキーを置いた。
彼女は右手の中を見てこう言った。
「車のあてって私のこと?]
[そう。まずいかなあ。でも、あの車は僕たちの思い出で一杯のはずだよ。そんな思い出、君以外の他人には渡せないよ]
彼女は再び泣き出した。そしてしっかりと目を見つめてこう言った
「ありがとう。しっかりと預かっておくわ。明日からは私の恋人はこの車。そう仕向けたのは貴方よ」
[うん、ちょっと後悔している」
彼女はキッと睨むと彼に思い切り抱きついた。

・・・・5年後・・・・
彼女は早朝着の便で帰国する彼を空港まで出迎え、そのまま横浜に車を向けた。
朝日の中の山下埠頭で彼女はキーを彼に渡し、微笑みながらこう言った。
「私の恋人が帰って来たから、あなたの愛人をお返しするわ」
彼はこう答えた
「浮気しなかったかな?こいつは」
「貴方と違って純情ですから」
2人の笑い声が埠頭に響いたのと同時に、出航の客船の汽笛が鳴り響いた。
「さて、5年間のお互いを理解しなくちゃ」
彼は新居に向けてアクセルを開けた

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