Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story37〜

Red Stage

秋雨前線 という言葉がある。梅雨前線という言葉もある。日本という国はなぜにこんなに雨が続く日々が多いのだろうか?実際に6月から9月まで、前線が停滞する場合は10日間雨続きなどということもある。
不思議なのは憂鬱になるべきこの雨がなければ、日本という国の美しい自然は形成されないということだ。雨の恵みがなければ気温の変化もなく、季節の移り変わりも見ることが出来ない。
夏から秋にかけての台風の襲来は甚大な被害をもたらし、台風一過の秋晴れなどというものがやってくる。そんな毎日の変化が自然の景観を日々更新し、人々はその景観を求めて旅に出る。

秋雨前線が大陸からの高気圧に押出されて列島を離れたこの日、彼は久々に山へと繰り出した。
都会はまだまだ蒸し暑く、台風のもたらした南からのじっとりした空気がたまらなく不快だったからだ。
やがて彼は標高700mの高原に到達した。都会の湿度は微塵もなく、気温は15℃程度。空気は澄み、風が心地よい。都会では感じることのできなかった季節の移り変わりがここにあった。
そして木々は秋の到来を受けて完全な紅葉に染まり、峠の国道はまさに赤一色の世界を演出していた。

頂上でタバコを一服した彼は、周囲に耳を澄ませ、鳥の鳴き声、木々のざわめきを全身で感じていた。幸いにも観光地から離れたこの峠には、家族連れの喧騒感や観光客の渋滞もなく、ただただ彼とその周囲だけが人工で作られた空間であることを感じていた。

タバコを吸い終わる頃、その静けさを打ち破るかすかな音が彼の耳に飛び込んでいた。
エンジン音で彼はその車がイタリアの車であることを直感していた。
やがてエンジンの咆哮は大きくなり、頂上に真っ赤なアルファロメオが姿を現した。
彼は真っ赤に紅葉した山の中からコーナーを飛び出してくるその赤い車体に思わずつぶやいていた。
[かっこいいな]
まさに赤い山の中からカタパルトで発射された様な姿は、まさに戦闘機のようなかっこよさがあった。
そのアルファロメオは彼の前を猛然と通過すると、次のコーナーに消えていった。
なんとなく自然に調和してその後姿に見とれていた彼はしばし時間を忘れた。

しばらくすると今度は逆方向から先ほどと同じエンジンの咆哮が聞こえ、やはりコーナーを猛然と脱出すると彼の前でいきなりスピン状態に陥り、ノーズを彼に向けた状態でピタリと停車した。
あっけに取られてみている彼は、言葉を失ってただただアルファロメオのコクピットを見ていた。
この時点で彼の頭の中にはドライバーが若い男性であると信じて疑わなかった。事実、ドライバーズシートに着座しているのは、髪の毛を短く切り、きりっとした少年のような顔の人物だったから・・。

ところがアルファロメオから下りて来たドライバーは開口一番こう言った
「ねえ、かっこよかった?」
彼は驚いた。その声は紛れもない女性の声。確かにカッコは男の子っぽいのだがどう見ても線の細さや体つきは女性だ。彼はあっけにとられて何も言葉を発することができなかった。
[ねえってば。かっこよかった?」
彼はふとわれに返ってこう答えた。
[ああ、ごめん。ちょっとあっけにとられていたので」
[びっくりした?]
彼女は屈託なく笑った。笑うとなかなか可愛い。
[いやあ、さっきあちらから来た姿を初めてみた時に、まるで赤い森からカタパルトで打ち出されたみたいだと思っていたんだ。かっこよかったよ」
[前を通過した時に思ったんだ〜。私のこと見ているって」
彼は苦笑してこう言った。
[正直に言うと君のことを見ていたわけじゃないんだ。アルファロメオと紅葉の調和を見ていたのさ。まさにレッドステージだね」
[え〜、ドライビングテクニックを見てくれたわけではないの?]
[いやいや。確かに君のスピンターンの腕もコーナーリングテクニックもすばらしいよ」
[ねえねえ、運転してみて]
[え?アルファロメオをかい?]
[うん。なんとなく車の運転がうまそうな人だからちょっと乗ってみてもらおうと思って」
彼はこの偶然の出会いをちょっと楽しむ気になっていた。そこでこう提案した。
「では、まず最初に君が運転して見せてくれ。その上で車の癖とかを見てから運転させてくれ」
同意した2人は車に乗り込んだ
彼女の運転は大胆でかつスムーズ。その若さと女性ということを考えると非常に豪快なドライビングといえた。ステアリングさばきも無理なく、ブレーキングにも無駄がない。ただ、面白みにかけるといったところか。
峠を1往復し、彼は運転を代わった。
走り始めの最初の3つのコーナーは慎重に、4つ目のコーナーから限界に挑戦した。
ブレーキングは大胆に最小限で、ステアリングはきっかけだけに使いアクセルワークで抜ける。
リアタイヤがすべることも全然気にならない荷重移動のテクニック。
彼女はびっくりしてこう言った。
[ねえ、これって異次元だよ。あんた一体何者なの?]
彼は質問にはまったく答えずにこの峠道を楽しんだ。
やがて峠を一往復して頂上に戻った時、彼はちょっと彼女を見やると鮮やかなスピンターンで元いた場所にピタリと止めた。
彼女は彼を睨むともう一度聞いた
[あんた一体何者?]
彼はちょっと微笑むとこう言った。
[職業は運転手。いつも乗っている車は屋根がなくて1人乗り。どうやらナンバープレートはついていないみたい。持っている免許は国際A級らしいよ]
彼女はあっけにとられていた。
[なんだよ。なんでそんな奴に私の運転見られるなんて〜。全然かっこよくない」
口を尖らせて抗議した。彼はニコニコと笑うとこう言った。
[ドライビングなんてただの技術だよ。技術という点では君も僕に引けをとらない。あとは経験だけだからね。このレッドステージで君のアルファを運転できるって言うのは、サーキットで限界にチャレンジするよりもよっぽど面白いよ。速度は問題ではなく、もっとシチュエーションを楽しもう」
彼女はニヤッと笑うとこう言った。
[やっぱりかっこいいでしょ。私]
彼もニヤッと笑うとこう答えた
[少なくとも僕よりもね。今日は君とこのアルファが主役だよ。紅葉を除いては・・・。さて、飯でも食いに行かないか。峠の蕎麦屋でうまいところがある]
アルファロメオは再びレッドステージの中に飛び込んでいった。

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