Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story38〜

One Year Later


Photo by Mr.harry (Special thanks)

クリスマス・イブ、午後7時・・・
彼女は一年前と同じ場所にいた。なぜここにいるのか?彼女は不思議だった。自分でも良くわからない。一年前のことは重要だったのか?自分にとって一年前の行動のどこが引っかかるのか?
昨年の彼女は自信に満ち溢れていた。自分の思い通りにわが道を進むことこそ彼女の人生の美徳であると感じていた。そして彼女に怖いものはなかった。彼とともにいたころは・・・。

一年前、彼女は彼とクリスマスイブをここで過ごした。但し、一般的なクリスマス・イブとは程遠い思い出だった。ごく一般的なサラリーマンでスマートでもなく、裕福なわけでもない彼とのデートでは、都内の一流レストランが精一杯の贅沢であった。
彼女は29歳。確かに年齢こそ決して若いとはいえないが、自分なりにそこそこの美貌があり、自分の職業がマスコミ関係ということもあって自分の磨き方も心得ていた。つまり彼女はもっと有名人、お金持ちなどなどのいわゆる[三高][玉の輿]の可能性もあったのだ。
彼とは仕事上のひょんなことで知り合ったのであるが、フリーだった彼女は[暇つぶし]程度の付き合いのつもりであった。
彼なりの精一杯の贅沢をしたクリスマス・イブ、彼女は彼との話も上の空だった。
彼でない人間と付き合うことも可能であった彼女からすれば、彼女のために無理している彼と付き合わなくてもよいのだ。精一杯の贅沢を要求する彼女に対して全てをかなえようとする男だってまだまだいるのだ。
でも彼は彼女のために一生懸命だった。彼女の贅沢やわがままに対してもニコニコ笑って許してくれ、時には優しくたしなめるという包容力があった。逆に一生懸命にされることが彼女にとってのイライラを生み、彼女は自分が自分でなくなるような感覚を覚えるようになった
・・・・そして・・・・ディナーのあと、東京タワー下で彼女は最低の言葉で彼を振った・・・。
[あなたのような貧乏人とはもう付き合えないわ]

あれから一年、彼女は芸能人、実業家、医者・・・様々な上層階級の人間と付き合った。彼らの全てが彼女の全てのわがままを聞いてくれた。ありったけの贅沢を要求し、その願いがかなえられないことはなかった。
でも・・・贅沢を尽くせば尽くすほど彼女の気持ちは複雑になった。何かにつけて彼の顔を思い浮かべてしまう。
彼とのデートは電車で移動、食事は居酒屋がいいところ、遊びはゴルフの打ちっぱなし、誕生プレゼントは頑張ってシャネルの香水。
実業家の御曹司は贈り迎えがベントレー、食事は銀座アスター、遊びはクルージング、誕生プレゼントはシャネルのスーツ。
でも、彼と過ごしている時の彼女は・・・そう、心が満たされていた。気付くのが遅すぎたのか?

彼女はふらりと東京タワーの下にたどり着いた。東京タワーのイルミネーションは一年前と変わらない。一年前と違うのは彼女が求める幸せの意味。
東京の冬は彼女の吐く息を白く映し出していた。彼女はぼんやりとその白い空気を見つめていた。

ふと彼女は気配を感じた。吐く息のその上に、もう一つの白い息を見た彼女は振り返った。
そこには半ばびっくりしたような顔で彼が立ち尽くしていた。
[久しぶりですね、なにをしているのですか?こんなところで、クリスマス・イブなのに]
彼が訪ねても彼女は何も答えられなかった。ただただ彼の顔を見つめていた。
彼の顔がびっくりしたような表情から、徐々にやわらかい笑顔へと変化した。
[またお会いできて嬉しかったです。では、失礼します]
彼は一礼するとその場を立ち去ろうとした。
彼女はその時、思いもしない大声で叫んでいた。
「待って!」
彼は驚いたように振り向いた。
彼女はしばらくの間何も言えず立ち尽くしていたが、やがてつぶやいた。
[この一年間の間、あなたのことを忘れることができなかった。誠に残念ながら、私はあなたといるのが一番楽しいみたいなんです」
彼はあっけにとられたように彼女の顔を見つめて、ぼそっとつぶやいた。
「そうですか、ありがとうございます」
彼と彼女は全然ロマンティックではないこの会話に対してお互いに吹き出した。
ふと見上げた東京の空に、そびえ立つ東京タワーのイルミネーションが彼らにとってクリスマスツリーのようだった。

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