Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story39〜

Silent Night

イブの夜も更けてきた。
彼は1人で部屋にいた。部屋の中にはFMからの音声が静かにクリスマスを伝えていた。
彼もクリスマスを一緒に過ごす彼女がいないわけではない。彼も彼女と共にクリスマスイブを過ごしたかった。ただただ、彼女の仕事がその時間を共有することを許さなかった。

彼女が夜の仕事であることに不満を感じたことはない。むしろ自由奔放な彼女の性格から考えても、夜の仕事は彼女を引き立たせることができると思っていた。
従って彼と彼女はクリスマスイブを世間一般の恋人たちが過ごすような経験をしたことがない。彼が彼女の店に行くか、彼女が深夜帰宅してから[イブではないクリスマス]を過ごすのであった。
彼と彼女が付き合い始めて3年。特に不満を感じたことはなかったのだが・・・。

彼はなんとなく今年のクリスマス・イブを彼女とすごしたいと思った。店の客と従業員の立場ではなく、2人きりの空間でゆっくりと過ぎる時間を経験したかった。
彼が求めたものは[共有する時間]
彼と彼女が一緒にいることができるわずかの時間を、今までつなぎ合わせることで2人の絆は存在した。
もし、その時間がもっとあれば。そして永遠に続くことができれば・・・・。

午前0時、クリスマス・イブがクリスマスへと変わる時、彼はグラスを傾け一気に飲み干した。
残念ながら乾杯する相手はいない。ベッドサイドへゆっくりと歩み寄った彼は、彼女の写真が入った写真楯を取るとこうつぶやいた。
[Merry Christmas」
やがて酔いが回り、彼は知らず知らずのうちに深い眠りへと吸い込まれていった。

ふと、気配を感じて彼は目覚めた。
時計の針は午前3時を回り、つけっぱなしになっていた部屋の明かりがやけに寒々しく感じられた。
起き上がった彼は、さらに熟睡するつもりで電灯のスイッチへ手を伸ばした。
その時、眠りに着く前には存在しなかった一つの箱を見つけた。プレゼント包装されたパッケージを。
眠っている間に彼女がやって来て置いていったものらしい。彼は
「用意したプレゼントを渡しそびれちゃったな」
と独り言をつぶやきながら包装を開けた。
プレゼント包装を丁寧に開梱し小さな箱を開けてみると、中に入っていたものは手紙だった。
彼はゆっくりとその手紙に目を通した。
手紙にはこう記してあった。

Merry Christmas
遅くなってごめんなさい。いつもいつも時間がすれ違ってしまって寂しい思いをさせてごめんね。
わたし、実はこのところ寂しくって、プレゼントをなににしようか一所懸命考えたの。
でも、あなたが今望むプレゼントって何も思い浮かばなかった。
「わたしって彼のこと何も知らないなあ」
って少し自分を責めてみたりした。
でも、ふと「そうじゃない」っていうことがわかったの。
あなたが欲しいものをわからないんじゃなくて、自分と同じものを彼は欲しがっているのではないか?って。
だから、そろそろ夜の仕事をやめようと思うの。今年一杯でやめてみて、昼の仕事で頑張ってみる。
そうすれば、私が欲しいもの「あなたとの時間」が手に入るから。
「あなたもわたしとの時間を欲しがっている」と考えた私は間違っているのかしら?
だから今年のプレゼントは[時間]。これに満足してくれたならリビングに来て!

最後まで読み終わった彼は慌ててリビングへと駆け込んだ。
そこにはいたずらっぽく笑った彼女がグラスを二つ持って待っていた。
[私の勝ちかな?]
彼女はグラスを彼の前に置くと
[店から引退記念で一杯せしめちゃった。今夜は飲むぞー」
と袋一杯に入ったスパークリングワインを見せた。
そんな彼女をじっと見た彼は、優しく、そして力強く抱きしめ、そして囁いた。
[静かにゆっくり飲もう。時間は逃げない」

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