Bloody's Tea Room Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ 2018/02/18 15:32更新
当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。 読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください。
〜Story46〜
Memory of My Life
時にふと思い出のある場所を風景を思い出すことってありませんか? その当時は何気なく通過していた山、湖、花・・・そして乗り物、建造物。 そしてそれらの場所が無性に恋しくなることってありませんか? 今はどうなっているのだろう?今はまだあるのだろうか まるでその景色に[ご無沙汰しております。お変わりありませんか?]と手紙を出したくなるようなそんな気分になったことありませんか? 彼は5年前の風景を思い浮かべながら湖畔の周回道路を彷徨っていた。彼が朝目覚めた時には、この湖にいることなど予想だにしなかった。地図を見ていた彼がふとこの湖の名前を目にしたとき、鮮やかに5年前の記憶が蘇ってしまったことが、彼の行動力を一気に加速させていた。 もちろん5年前と同じ風景が展開していることなどは期待できない。でも彼はそれを確かめたかった。すぐに! 5年前、彼は彼女とともにこの湖の湖畔にいた。ドライブがてら立ち寄ったこの湖の湖畔を1周してみた彼らは、湖畔にぽつんと置かれた蒸気機関車を見つけた。 おそらく退役して20年ほど経過したであろうその蒸気機関車は、ただただ、文字通り「ぽつん」と湖畔の広場に置かれていたのだった。 周囲に囲いも何もなく誰の所有物かもわからない、保存してあるのか?放置してあるのか?彼らは蒸気機関車の脇で語り合ったのだった。 もちろん整備もされていない機関車は、年輪を感じさせる傷だらけの車体を雨風にさらし、塗装はひび割れ、退色が激しかった。その朽ち果てた姿がまた、湖畔の寂しい風景にマッチしてなんともロマンチックだったことを記憶している。 そして今、彼の手にはその当時の1枚の写真がある。蒸気機関車と、彼の当時の車と、彼女が笑って写っているその写真の場所をもう一度捜し求めて彼はさすらっているのだった。もちろん今、彼の助手席には彼女はいない。そして車も当時の車ではない。 ましてふらりと立ち寄った場所の記憶はほとんど残っていない。ただただかすかな記憶をたどって湖畔の道路を周回するしか方法はない。 でも彼はそのさすらいを楽しんでいた。もちろんその当時の景色がそのまま残っていることは予想だにしていない。必要なのは彼自身の達成感。[見つけた]という時の感動が欲しかったから。別に5年前に戻りたいとは思わない。ただただ欲しかったのは5年前と同じ場所に立ったという事実・・・ やがて最近整備されたと思われる公園の脇を通り過ぎた時、右手に黒い巨体を認めた彼はステアリングを右に切った。 まさに5年前の場所・・・蒸気機関車はいた。 見違えるように整備された蒸気機関車は、再塗装されて屋根つきの保管庫に展示され、公園のオブジェとして第2の余生をおくっていた。 彼は5年前と同じ場所に車を止め、写真と同じアングルからその姿を見つめた。素直な気持ちを表現するとこうだった。 「いてくれた」 5年前と比べると、現役時代の重々しい存在感は薄れ、単なる模型のように鎮座しているその姿はどこかしら寂しい。走ることを使命として生まれたその巨体は、今では公園の一部の飾りにしか過ぎない。 しかしこの5年間で彼も変わった。5年という歳月は彼の車を換え、彼の日常を変え、そして彼の周囲にいたに人々の構成も変えた。 そう、時代とともに何かは変わってゆく。その頃に戻ることは出来ない。しかし長く記憶にとどめたい場所、時間は存在する。そしてそれが存在し続ける以上、記憶の中に想い出は生き続ける。 重要なのは[存在すること]。存在がなければ記憶もたどることは出来ない。そうやって刻まれた年輪が人生の厚みを増してゆく。そして振り返る気持ちがあれば生きてきた存在意義が見つめなおせる。 コクピットに乗り込み、再び蒸気機関車の巨体を見上げた彼はこう思った。 [いつまでもお互いに存在しよう] コクピットからシャッターを押した画像をデジタルカメラで確認したとき、その画像の中の蒸気機関車はあたかも彼の車と並走して走っているような錯覚を彼は感じていた。
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