Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story47〜

My Friend

冬から春に。誰から教えられるわけでもなく、誰に聞いたわけでもなく、人々はその各々の感覚で春の到来を感じる。気温、空気、空の色、草の香り・・・・
人はTVからでもラジオからでもなく、その自分の感性で季節の移り変わりを知る。それは人が動物の一種であることを自覚出来る瞬間。モノに囲まれる生活でも、人の建造した様々な空間にいても、人は動物であることを捨てることは出来ない。だから季節や自然を肌で感じることが出来る。
もしかして自分の愛するものに魂が宿ることがあるならば、彼らもまた季節を感じることが出来るのであろうか?

彼が朝目覚めた時、なんとなく心地よい脱力感を覚えた。ベッドから起き上がったときのなんともいえない爽快感。寒さを感じない目覚め。そう、春の到来を感じるひととき。
彼はそんな朝の一時をサイホンで入れたコーヒーの香りとともに過ごした。空はどこまでも澄み、太陽の光が暖かい。そこにはどんよりとした冬の曇天とまったく違う表情を見せる小春日和が展開している。
そして彼はこの小春日和を堪能したいと考えた。友達と一緒に。

コーヒーを飲み終わった彼はガレージへと向かう。そこには彼の友達がいる。彼よりも長い時間を経験している友達が・・・。
友達の名前はオースチンヒーレースプライトMk2.英国の生み出した超軽量、小型スポーツカー。2気筒850ccのエンジンとシンプルそのもののFRシャーシ、何よりも700kgそこそこしかない軽量な車体は、1962年に生産されて以来40年以上の歳月を生き延びた歴史を持つ。
友達というのもおこがましい人生の大先輩。彼はこの友達を[人]として扱っていた。
湿度によって微妙に吹け上がりの変わるキャブレターが機嫌を損ねると[風邪を引いた]
シンクロしていないギアをなめてしまうと「筋を違えた」
ウインカーなどの電気系統が作動しなくなると「血の巡りが悪くなった」
もちろん彼は友達の主治医でもある。リレー、ワイヤー、プラグ、バッテリーチャージャー、工具一式。全ての医療器具が友達とともにある。まさに友達をいたわり、ともに生きてゆこうとする姿のように・・・。
それは本当に人と接するような愛情と思い入れがあってこそ生まれる言葉。そう、彼の親友がスプライト。

彼は友達をガレージから連れ出し、南を目指した。
もちろん簡素な幌は取り払い、着脱式のサイドウインドウも取り外し、英国製ライトウエイトFRの美しい姿を全開にして・・・。
エンジンをいたわってなるべく高速道路を使わず、使ったとしても時速80km/h以下に抑えて風を楽しむ。もちろんスプライトのエンジン音、ギアの音、タイヤの音、全てを楽しみながら小春日和を2人でドライブする気分は最高だった。
この季節はスプライトにとって最も気分良く走れる。冬場の電気系統トラブルや、夏場のオーバーヒートを気にしなくても済む。
[今日は気持ちがいいなあ・・・]
彼はボソッと独り言をつぶやいた。スプライトは心なしかエンジン音をひときわ高くしたようだ。まるで彼の言葉に反応したかのように。

やがてスプライトは半島の先端に到達する。そこはすでに南国の香りが満ちた初夏の空間。贅沢に南国の樹木によって作られた並木が彼らを歓迎する。
果てしなく続くストレートを巡航していると前方に赤い影が見えた。
彼がその影の姿を正確に把握した時、軽く一回のホーンを鳴らした。赤い影は即座に右にウインカーを出して走り始める。スプライトに比べると30歳は若いアルファロメオは 彼の知人の車だ。知人もまた車を人として扱っているような人物。もちろんこの偶然の出会いは、スプライトの気分もより一層盛り上げたように彼は感じた。それは彼の、彼らの、そして車たちの感性が一致しただけのこと。
前方をゆっくり走るアルファロメオからゆっくりとカメラがこちらを向き、彼がパッシングライトで答える。そんな小春日和の午後はいつしか時間の経過を忘れる。
[今日は4人でのドライブになったね]
彼はスプライトにそうつぶやいた

やがて山と海との分岐点に差し掛かり、アルファロメオは山へ、スプライトは海へ、それぞれの進路を別々に取る。別れ際に彼らドライバーは手を振り、車たちはホーンを慣らし、挨拶を交わした。
お互いの車たちのホーンが
[バイバイ、またね]
と言っているように感じた彼は、潮風を正面に受けながら1人ニコリと微笑んだ。

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