Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story3〜

Let's Cry

彼女はただただ泣いていた。自分がどうしたら良いかわからない。自分の気持ちの混乱をただ「泣く」ことだけでしか表現できなかった。
そして彼はただただ黙って彼女の背中に手を置いていた。自分に出来ることはそれしか出来ないから。それ以上、自分には何もしてあげることが出来ないから。

彼はこの日決心していた。お互いの良い友達関係から脱したい。もう一歩踏み込んだ気持ち、もう一歩踏み込んだ関係になりたい。嫌われてはいないはずだ。打開するためには自分から勇気を出さなければならない。その勇気が最高潮に達した時、彼は行動すべきだと決断した。
彼女と食事をして送ってゆく車の中で、彼は運転しながら心の中で決心していた。

彼女の自宅に程近い駐車場、いつものようにシートベルトを外して彼女は車を離れようとした。
彼はドアノブを握る彼女の手をそっと押さえてこう言った。
[今日はもうちょっと話をさせてくれないか]
彼女は意外そうな顔をしたが、そっとドアノブを握る手を緩めた。
[俺は君といるととても楽しい。時間が経つのを忘れる。このまま時間が経過しなければ良いと思う。一緒にいる時間をもっともっと欲しい。この気持ちって君を『愛している』ということではないかと思う]
彼女は予期していたかもしれない。いつかこう告白されるのではないか?と
[とてもうれしい。私も貴方のことが好き。でも『愛している』とは言えないのよ]
[そうだろうと思う。歴史はこれから刻めばいい。一緒に歩いてゆくことは出来ないだろうか」
[私には大切な人が別にいる。その殻を壊すことは自分しか出来ない。でも貴方のことも好き。私はどうしてよいかわからない」
彼は彼女の頬に触れるとそっとキスし、そのまま力を込めて抱き締めた。もう離さない!というように。

しばらくそうしていた彼はやがて頬が濡れてくるのを感じてそっと体を離した。
彼女は顔を見られないように向こうを向いた。
[泣いているの?」

彼女はなるべく彼から顔を背けながらこう言った
[だって、私は今あなたの気持ちに答えられない。どうしたらよいかわからない。私のせいなんだけど何も決められない私がいやになる」
彼はハンカチを取り出して彼女の頬をぬぐった。
[仕方ない。無理に考えることではないよ。勝手に自分が好きになって告白しているだけなのだから」
「でも・・・」
[泣きたい時は泣けばいい。思いっきり泣いてしまえば自分の心もスッキリする。それ以上溜め込むことのほうが良くない」
彼女は彼の胸に顔をうずめて泣いた。思いっきり泣いた。彼はただ黙って背中に手を添えた。

やがて彼女はそっと顔を上げて彼の頬にキスした。
[今はこれだけしか出来ない]
彼はクシャクシャになった彼女の頬に手を添えて言った。
[ありがとう。今はこれで充分」
彼女はもう一度頬にキスするとドアを一気に開けて外へ出た。彼は見送らなかった。
しばらくその場でじっとしていた彼は、やがてエンジンをかけて車を出した。
彼女の気持ちは痛いほどわかった。彼にはどうにも出来ないことを悟っていた。彼はただ車を走らせた。1人きりの車内で彼は空しさを感じていた。
メーターが霞んで見えていた。彼はただ、涙で霞んだフロントスクリーンを見つめることしか出来なかった。

泣きたい時には泣けばいい。
無理に自分の気持ちを閉じ込めることはない。
喜怒哀楽があったほうが人らしい。
心の痛みを表現することは人しか出来ない。
自分の気持ち、人の気持ち、通じ合った時にも通じなかったときにも。
そういう時に素直に泣くことが出来る人になろう。
恥ずかしいことなんかない。
心の豊かな自分になろう。
そのためには時には思いっきり泣こう。

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