Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story5〜

Wine&Wine


Photo by Mr.Red (Special thanks)

排気量1250cc、CVTオートマチック、最大出力80ps。
なんと言うこともないスペックのこのFIAT Puntoを彼は大変気に入っていた。
イタリアのラテン魂の生んだ前衛的なフォルムと、日本流に言うならば[山椒は小粒でピリリと辛い]的なキビキビした運動性能。そして何よりもこのワインレッドのボディーカラーはまさに[このPuntoのために]生まれた色なのではないかと彼は思っていた。

彼はある日ふと思った。
[このPuntoが一番似合う時間はいつなのだろう]
その想いは彼の心の中で無限大に膨らんでゆき、毎日の生活の中でも常に心のどこかを支配していた。
その答えを見つけるために、彼は幾度となく様々な場所に赴き、ある時は街の中で、ある時は自然の中で、彼の理想とするシーンを追い求めていた。

冬のある日、彼は彼女と共に海辺のパーキングエリアにいた。
彼はゆっくりと過ぎ行く時間を感じながら、彼女に向かってこの疑問を問いかけてみた。
カラーコーディネーターである彼女のプロの答えを期待しながら・・・。
「このPuntoの最も似合う時間、場所を追い求めているといたら笑うかい」
彼女はゆっくりと顔を向けてこう言った。
「真剣に悩んでいるようね」
「そうなんだ。飯ものどを通らない」
彼女は笑った。
「あなたって気にすると突き詰めるところがあるから。でも、追い求めていてもその答えは出ないのよ。ある日突然向こうからやってくるものなの」
「でも、常に気にかけていないと見逃したりするだろ」
「それは必要なことだけど、気にかけていないと見逃すくらいであればそれはベストとはいえないのよ」
「君の仕事でもひらめきが重要ということかい?」
「仕事として考えた場合、それはカラーを使って表現する技術ね。でも貴方はその技術を必要としているのではなくて、芸術を必要としている。芸術は仕事の範疇では答えが見つからない」
「つまり・・・はっという瞬間を捉えることが出来るのが芸術家であると言うわけか?」
「そうなるわね」

会話に熱中していた彼がふとフロントガラスの向こうに目を向けた時、海には夜の帳が下りてきていた。
「あっ!」
彼は叫ぶと共にカメラを片手にPuntoを降り立った。
そこに展開していた光景はまさにワイン色の空と海。Puntoは見事なまでにその風景と調和し、一体となっていた。
夢中でシャッターを押す彼の傍らに彼女が降り立ち、無言で彼の姿を見つめていた。
充分満足するまでシャッターを押し続けた彼はやがて彼女に向かって言った。
「見つけたよ」
彼は一度Puntoに戻り、グローブボックスからなにやら取り出した。
「ワイン?」
彼女はゆっくりと微笑み、彼からワインボトルを受け取った。
「見つけたときに飲もうと思っていた。君と二人でいた時であってうれしい」
「Wine&Wineね」
「いや、Wine三重奏さ」
お互いに顔を見つめて笑った二人はPuntoの傍らで、闇に包まれてゆく景色を堪能しながら時の過ぎるのを共有し、やがてやってくるであろう二人の未来へ乾杯した。

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