〜Story6〜
On The Sky
山の天候は変わりやすい。初夏の山頂は分刻みで刻々と移り変わる天候に人々は翻弄される。
しかし、天候が悪化した時では得られない快感も存在することは確かだ。
梅雨の合間を縫って晴れ渡ったある日、彼らは遠く200kmの距離を遠征し、初夏の山頂へとやってきた。限りなく標高0mの地点から、標高1000mの地点まで一気に駆け上がる。
0m地点で彼らに微笑みかけていた太陽はすっかりと雲の合間に隠れ、行く手には厚い雲のカーテンが立ちはだかる。
蒸し暑い都会に慣れた彼らの多くは、その標高がもたらす涼しさに期待し、雲のカーテンを切り裂くように隊列を整えて駆け上がってゆく。
道端にはニッコウキスゲの群落が、露に濡れてみずみずしさを魅力的に振りまいている。
前方の雲のカーテンに突入する時、彼らの多くは少なからず恐怖感を覚える。
視覚的にゼロに等しいそのカーテンは、その先に何が存在するのか?
そこにはどのような世界が広がるのか?
彼らの多くはアクセルを緩め、危険な賭けに相対峙する。
カーテンを開けた時、視界に広がるのは「空中を走る」快感。
さらに道は頂上へとつながり、雲は眼下に広がる不思議な光景とめぐり合う。
彼らの隊列は勇気付けられるかのようにスピードを上げ、彼らの愛機は戦闘機のように雲の上のハイウエイを駆け抜けてゆく。
この日、もしも晴れたなら・・・・
下界にははるか彼方まで見渡すことの出来る壮大な光景が広がったであろう。
太陽はさらに彼らに近づき、光の満ちた緑の世界を展開させたであろう。
しかし・・・
雲の上を走るこの快感は、その景色が見えなかったと言う代償を払ってもなお余りある快感を彼らに与えたことは言うまでもない。
頂上に到着した彼らの愛機には、その名残の雫がうっすらと皮膜を形成し、まるで熱くなったボンネットフードを冷やしてくれているかのようだった。
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