Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story20〜

Choice

人には必ず選択のときが来る。どんな小さなことでも、どんな大きなことでも常に選択することが必要。
特に人生を左右する選択に関して、人は必ず迷い、苦しみ、そして時間をかけなければならない。
ところがその選択が二人に意思によって左右される場合、時間をかけることがかえって話をこじらせ、機会を失ってしまうこともありえる。なぜなら、二人の波長がその選択肢を左右してしまうから。一人では相手の選択を変えることは難しいから。

彼はその日、落ち着かなかった。タバコを何本もチェーンスモークし、ビールを飲むペースもなんとなく速く、食事を食べるペースもいつもと全く違っていた。
彼女もまた、落ち着かなかった。いつになく饒舌で、話があちこちに飛び、ひっきりなしにいろいろな話題を話していた。
彼らが落ち着かないのは久しぶりに会ったから。
そして会わなかった期間に彼らは一つの結論を出さなければならなかったから。

2ヶ月前、彼らはお互いの人生観から、お互いの関係に決定的な亀裂が入ったことを悟った。
彼は彼女の今を必要とし、彼女は彼の将来の確約を望んだ。
彼としては今のままの彼女との関係を望み、そしてそのまま結婚という選択を見据えて関係を続けることを望んだ。
彼女は彼との関係を続けることは、今の彼女の環境・・・仕事、生活、家族・・・を捨てる以外にないと考えていた。
彼らは人生の選択において決定的な波長の差を感じてしまったのだ。そして彼らはいわゆる「冷却期間」と取ってお互い一人で考える道を選んだ。この選択が彼らにとって二度会うことがないという選択であったとしても仕方ないと考えていた。

それから2ヶ月。
彼は彼女のことを一時も忘れることはなかった。
彼女は彼の表情を常に頭に浮かべていた。
そして、彼らは再び会う決意をした。それは過去の復活と言う意味ではなく、お互いの気持ちを確かめるために・・・。

ギクシャクしていた二人はお互いに肝心なことを話すことは出来なかった。
結局話せぬままに食事を終え、レストランを後にした二人は、ゆっくり話すために彼の部屋へと足を運んだ。
リビングでコーヒーを飲みながら、やがて彼は勇気を出して話を切り出した。
「この2ヶ月いろいろ考えた。いや、考えることをやめようと努力した。でも君の事を考えない日はなかったよ。だから今日は覚悟して来た。やっぱり一緒にいよう」
「私もあなたの表情がいつも頭の片隅に浮かんでいた。やっぱりあなたは私にとって必要な人だと思った」
「ならば、二人で一緒にいたほうがいいじゃないか」
「でも、ちょっと違う。私は今の自分の生活を崩したくない。と言うか全て捨てて飛び込んでもいいのかどうかが怖い。そこだけはどうしても乗り越えられない」
「今は一緒にいるかいないかと言う選択をしているわけで、なんで『全てを捨てる』ことになるのかが僕にはわからない」
「そうね。わからないかもしれない。それはあなたが男で私が女だから」
「・・・・」
「結局、私は何も決められないのかもしれない。その結果が周りの人全てを振り回して、不幸にしてしまって、結局自分は一人残されてしまう」
彼はしばらく黙っていた。彼女もそれ以上口を開くことはなかった。

しばらく経って彼は無言でリビングを出た。そして戻ってきたときに彼女に一つの包みを渡した。
彼女は怪訝な顔をしてその包みを受け取った。
「もし、もう一度会うことがあれば渡そうと思っていた」
彼はニヤリと笑うと、彼女に包みを開けるよう促した。
包みの中には彼女のイニシャルが入ったダイヤモンドの指輪が入っていた。
彼女は一瞬ダイヤモンドの美しさに見とれた。そしてゆっくりと左手の薬指にはめた。
「きれい・・・」
彼は黙ってその表情を見ていた。

しばらく黙って指輪に見とれていた彼女は、やがて指輪を外してこう言った
「これをもらうわけにはいかない。今の私は何も決められないし、これをもらう資格はない」
彼はちょっと悲しそうな顔をしてこう言った
「それならばもう話すことはない。それが君の選択なのだから」
彼女は彼をじっと見つめた。そしてその目に涙が浮かび、やがて顔をソファにうずめて泣きはじめた。
そんな彼女をしばらく彼は見下ろしていたが、やがて彼は彼女の手にそっと自分の手を添えた。
彼女はソファに顔をうずめたまま彼の手を握り返した。
しばらく手を握っていた彼女は、顔を上げずにこう言った。
「いつまでも手を握ってくれる?その手のぬくもりを欲しいだけかもしれない。それでもあなたを必要としている私がいる。そんなわがままでもいいのかな?」
彼は笑いながらこう言った。
「いいよ。もしかしたら僕たちの選択は結婚とか付き合うとかそういう形で語れることではないのかもしれない。どちらかでしかないという二者択一の選択は出来ないという第3の選択肢があってもいいのかな?と思った」
彼女は顔を上げ、彼の手を握る自分の手に力をこめた。

白か黒かと言う選択、○か×かという選択。
選択と言うと二者択一を想像しがちだ。
でも人生はそんなに簡単じゃない。
時には曖昧にしておかなければならない選択もある。
特に人と人との関係の場合は絶対に正解と言う選択などありえない。
最終的に決めるまでにはとても長い時間がかかる場合があるかもしれない。
長い人生、そんなに生き急がなくてもいいじゃないか。
明日は明日の風が吹く。
だから暖かいぬくもりがあるなら、そのぬくもりにゆだねるという選択肢があってもいいはず。
そういう自然な振る舞いが、人の心を豊かにするのかもしれない。
そして、その一つ一つの選択が人の年輪を刻むはずだ。

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