Bloody's Tea Room Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ 2018/02/18 15:32更新
当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。 読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください。
〜Story4〜
Partner
「カラン」と音が鳴り響き、ドアから外の風がすっと入り込んできた。 「いらっしゃいませ」 私のバーに男女の二人連れは珍しくない。しかし夫婦でここを訪れるお客様は珍しい。 「実は今日は僕たちの結婚記念日なんです」 開口一番、男性が私にそう告げた。彼らは私がこの店を開いてからずっと足を運んでくれる常連客だ。 「それはおめでとうございます。何年になるのですか?」 「4年になりました。いろいろありましたが、こうして二人で結婚記念日をお祝いできるということは夫婦円満ということですね」 私も結婚してからあと半年で4年になる。 「それは奇遇ですね。私も今年、結婚してから4年になるんです」 「しかし結婚というのはちょっとした縁とタイミングですよね。少なくとも僕が彼女と知り合ったときは、まさか結婚するとは思わなかった」 「私も同じようなものです。私はお客様と付き合うのはタブーと考えている人間でしたので、今の妻となぜ付き合い始めることになったのか今でもよくわからない」 私の妻は前働いていた店の常連客だった。お客様には手を出さないのが私のモットーだったのだが、なぜか今の妻とはふとしたきっかけで休みに行動を共にしたことからそのまま1年間付き合って結婚することとなったのだ。 「私たちも元々友達関係だったんだもんね。最初は貴方のことを男性として意識していなかったんだから」 私の話を耳にした女性が男性に向かって目を覗き込みながら笑いかけた。 「そりゃひどいな。僕は君のことを最初から女性としてみていたぞ」 二人は顔を見合わせて笑った。この二人はいつもこんな調子だ。奥さんが何か話題を振り、旦那さんがそれにこたえる。漫才でいえば奥さんが突っ込みで旦那さんがボケ。テンポのいい会話は私が聞いていても気持ちがいい。私は二人が会話に熱中してゆくのを聞きながら、二人のためのカクテルをつくり始めた 「ホント?結構いろいろな女の子に声かけていたの知ってるのよ」 「それはまあ男だしねえ。男はいつでも女性に対して恋愛感情を抱くものさ」 「「あら、私は男性の友達がたくさんいるけど恋愛感情は全くないわよ。しかも大抵結婚しているからそれ以上の発展は全くなし。私も恋愛感情は全くないし」 「でも、もしかしたら男性の方は意外と恋愛感情があるかもしれないぜ。結婚していようがしていまいが、女性に恋愛感情を持つのは男の本能だからね」 「だから男は浮気するんだ〜」 女性はいたずらっ子のように男性を見上げるように笑った。男性はニコニコしながら 「早く飲みもの決めろよ」 と話題をそらすように急かした。私は黙って二人に「ホワイト・ローズ」を作って出した。 「結婚記念日にはふさわしいカクテルでしょう。ごゆっくりしてください」 ほほえましいこの二人の会話に聞き耳を立てながら私はグラスを磨き続けた。 「ねえ、どう思う?」 突然話を振られて私は女性の方に振り返った。彼らは4年間の夫婦生活のエピソードを語り合っていた。その中で急に私に振られたのは「恋人時代と夫婦になってからと何が変わったか?」という話題だった。 「そうですね。私の場合は生活時間も違うんであまり変わらないですね。同棲の延長のような感じです」 「そうだよね。奥さんは昼間の仕事だし、旦那さんが帰るのは明け方だしね」 「私が家に帰ると『起きろ~』って起こすのが日課ですから」 そう言って私は苦笑した。 「でも、それでよく続くよね。秘訣はなんだと思う?」 今日も奥さんは絶好調なようだ。質問が矢継ぎ早に出てくる。 「やっぱりくっつきすぎず、離れすぎずって言うところでしょうか。なんせうちの奥様は年に2回は海外旅行に行ってるし、私も飲み歩きは多いし。でもお互いに休みの日曜日はなるべく一緒に買い物したりしてます。そうでもしなきゃ夫婦って感じが希薄すぎますからね。でもお二人のほうがちょっとだけでも私たちより長いんですから、私に聞くまでもないんじゃないですか?」 「いやいや、うちなんかいつでも崩壊の危機ですよ」 女性と私が話している間、男性はニコニコしながら黙って会話を聞いていた。私はあえて男性に同じ質問をぶつけてみた。 「お二人の長続きの秘訣はなんだと思います?」 男性はいきなり振られてちょっと戸惑ったようだ。しばらく「う〜〜ん」と思案していたがやがてこう言った。 「僕がいないと彼女は暴走しちゃうから」 それを聞いた彼女は一瞬唖然とした顔をしていたが、ちょっと睨むとこう返した 「それってひどいよ。私がいつも突っ走っていてあなたがそれを止めているということ?」 「いや、そうなんだけどそうじゃないっていうか・・・ねえ」 男性は私に助けを求めた。 「多分、奥様には旦那様にない明るさと社交性があるんですよ。旦那様から見るとそれがうらやましい。でも社交的すぎるとどこかへ行ってしまいそうだから旦那様がやさしく見守っている。そんなところじゃないですか?」 これは私は今までこの夫婦をずっと見てきて思っていたことだった。すると男性はこう続けた。 「なんか結婚ってさ、お互いの弱点を補い合うっていうか、埋め合うっていう感じがするんだよ。結婚相手のことを人生の伴侶っていうじゃないか。かけがえのない人生のパートナーみたいなものかな?と思うんだ。そして僕たちはその関係がうまくいっていると思っているよ」 私は男性の言葉を聞きながら女性の顔を見つめていた。いつもは勝気な彼女の目に優しさが宿るのがよくわかった。私はこれ以上二人の会話に加わらないためにちょっとだけ音楽のボリュームを上げた。
メニューへ