Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story9〜

Leader

私のバーには団体客はなかなか入りにくいのだが、それでも4名程度の団体は入ることができる小さなコーナーが用意してある。最初からこの店に団体で入ろうという客はいない。大抵一人で来てくれる客が、職場の仲間や友人たちを連れてきてくれるというスタイルで、このテーブル席は使われる。
カランと扉が開き、常連客の一人が顔だけを出した。
「いらっしゃいませ」
いつもならば一人でスッと入ってくる彼が顔だけを出した状態で店の中を見回している。私の店にしては珍しく混雑していた。カウンターは満席だ。
「4名なんですけど、テーブル席は空いてますか?」
幸いテーブル席は空いている。
「どうぞ」
私は奥と指差して彼に伝えた。彼の顔がぱっと明るくなり、外に向かって何やら言っている。やがて扉を大きく開くと彼と共に3名の男性客が店内に入ってきた。年の頃は彼と同じくらい。友人らしい。
「いらっしゃいませ」
私は4名分のおしぼりとコースターを持ってテーブル席へ向かった。
「マスター、今日は僕の友人を連れてきました。久々に飲む機会があったんで、この店を紹介しておこうと思って」
「それはありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
私は三名に自己紹介し、頭を下げた。
「ご注文は何に致しましょう」
「僕はジントニックにします。あとは?」
常連である彼が友人たちにメニューの説明をしてくれた。
「じゃあ僕は生ビール」
「僕も」
「僕はグラスワインをお願いします」
彼らからオーダーを取り、私はカウンターに戻って素早く注文の酒を用意した。トレンチに乗せてテーブルへと運ぶ。カウンターも満席なのでなかなか忙しい。テーブル席では早くも友人同士の会話が花咲いていた。どうやら共通の趣味であるスキーの話で盛り上がっているようだ。中でもブルーのシャツを着た男性がこのグループの中心らしいことがわかる。会話は彼を中心に回っていた。

夜が更け、カウンターにも空席が目立つようになってきた頃、テーブル席の呼び鈴が鳴った。
「はい」
カウンターから返事をすると、私がテーブルに向かう前に
「お会計をお願いします。ごちそう様でした」
と声が返ってきた。素早く計算を済ますと、私は伝票を持ってカウンターを出た。
「全部で7500円になります。お会計はお一人づつにしますか?」
私はブルーのシャツの男性に向かって伝票を乗せたトレイを差し出した。
「いえ、結構です。まとめて払います」
彼は財布を出すとトレイに1万円札を乗せて私に返した。私がレジを操作している間、テーブル席では割り勘計算している声が聞こえていた。

そして数日後、彼がやってきた。常連の彼ではない。ブルーのシャツを着ていた彼だ。
「こんにちは。覚えていらっしゃいますか?」
「先日4名様でお越しになった方ですね。覚えていますよ。いらっしゃいませ」
彼はスツールに腰かけると生ビールを注文した。
「先日頂いた生ビールの泡がクリーミーで大変おいしかったので」
彼はそう言いながら美味そうにビアグラスを口に運んだ。
「ちょっとお聞きしていいですか?」
彼は一気に半分ほど飲み干すと私に尋ねた。
「なんでしょう?」
「先日の会計の時、なんで僕に伝票を?」
「ああ、あれですか。会計を頼む声が常連の彼ではなかったので」
「僕の声がわかったのですか?」
「いえ、彼でなければあなただと思いました。皆さんの会話が漏れ聞こえていたのですが、会話の中心があなたのようでしたので」
「それはすごい観察眼ですね」
「実はこういう職業をしていると、団体様の中心人物を把握するのも重要なのです。会社関係であれば幹事さんに会計を持ってゆかねばならないし、接待などの場合も持ってゆく相手を気遣います」
「僕が中心人物に見えたんですね」
「はい。おそらくあの友人グループのリーダー的存在なのだろうと思いました。3人以上集まると必ず取りまとめ役の人が現れます。きちんとそのリーダーを把握しないと客商売は務まりません」
「驚いたなあ。僕たちはテーブル席だったし、そこまで状況をつかまれているとは思いませんでした」
「リーダーになる人ってオーラみたいなものがあるんですよ。他の人にはない何かが。あなたからはそれが感じられました」
「そうかなあ」
「実は失礼な言い方をすると、これからも常連になっていただきたいと思ったわけですよ。だから他の人とは違う特別対応をした」
「なぜ?」
「リーダーの素質を持った人は人を引き付けるんです。だから私はもっとあなたとお知り合いになりたいと思いましたし、あなたが常連になってくれれば、あなたと話したいという人がたくさん来てくれるかもしれないわけです。打算的で申し訳ないですが」
「なるほど。褒められているの・・・かな?」
「もちろんです。これからもぜひよろしくお願いします」
彼はニコリと笑うと空になったグラスを掲げた。
「もう一杯下さい。そしてマスターにも。常連初心者、よろしくお願いします」
ちょっと見える歯の白さが健康的だと私は思った。
 

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