Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story10〜

Where is She?

たまに昔のお客様を思い出すことがある。20年もカウンターに立っていると一時期常連だった人がある日ぱたりと来なくなったり、一度ぱたりと来なくなった人が突然現れてまた常連になったりということがある。
今日思い出していたのはそう、10年ほど前の常連客。彼女はその頃まだ大学生だった。美人の産地と言われる地方の出身で、彼女もまた健康的な美人だった。天真爛漫な振る舞いと、誰彼なくにこやかに話すその明るさは、男性常連客の羨望の的。だから常にカウンターでは誰かに奢ってもらっているという調子だった。ちやほやされることに若いうちから慣れてしまうと実はろくなことがないことを私は知っている。「それが普通である」と思ってしまうが故に、いつかちやほやされなくなった時に自分の周囲には人がいなくなってしまうからだ。大学を卒業してからはぱたりと姿を見せなくなったが、どうしているのだろうか?

「カラン」とドアベルが鳴り、15年の付き合いになる常連客が姿を見せた。そういえばこの人も、当時彼女にかなりの頻度で奢っていた。
「マスター、今日は僕が口開けなのかな?」
「ええ、開店してから2時間もノーゲスト。いっそのこと閉めちゃおうかと思いましたよ」
「閉まる前に来てよかった」
私は彼に生ビールを注いだ。彼は必ず最初に生ビールを1杯飲む。
「実はね、さっきまであいつのことを思い出していたんですよ。10年くらい前によく来ていた美人の女子大生がいたでしょ?」
「ああ、彼女ね。もう卒業してどのくらいになるのかな?」
「多分、あの時3年生でしたから8年くらいは経ったんじゃないですか?」
「美人だったよね。何度かデートに誘ったけど振られちゃった」
「彼女、他のお客さんにも相当誘われてましたよ。でも特定の彼氏はいなかったと思いますよ」
「結構身持ちが固くて、なんとなく出身地の影響か、古風なところがあったよね」
「社会人8年生、歳は30になったくらいですね。今でもちやほやされているのかな?とか思い出してました」
「あのままちやほやされていたとしたら、今ごろ『年齢』という壁にぶち当たっている頃だね」
私が考えていたことと全く同じようなことを彼が言うので、私は思わず噴き出してしまった。
「ん?どうした?」
「いえ、全く同じことを考えていたものですから」
「それでどう思う?」
「誰彼かまわずというような女の子ではなかったですから、案外すでに結婚して子供がいたりして、と思ってました」
「そうかもね。ああいう子は意外と浮ついているようでしっかりしているかもしれない」
「今頃くしゃみしているかもしれませんよ。実際美人というのは自分がどのように周囲から思われているのか知っていますから」
「群がってくる男どもに対してやけに冷静でね。実は奢られた後で舌を出していたりする」
「だから女は怖い!」
私たちは同時に同じ言葉を発して笑いあった。
「実はバーに来る女性の一人客は何かしら抱えているものなんですよ。彼女ももしかしたら大学では孤独だったのかもしれないななどと考えてました。だから自分を女王の様に扱ってくれる私の店に来る。そしてちょっと幸せな気分になって帰る。そんなところだったんじゃないでしょうか」
「だから別に彼氏を欲しがったりはしないということだね」
「でもバー以外に行くべき場所、帰るべき場所が見つかった時に、バーとは決別するんです。だから私は来なくなった女性に対しては『良かったね』と思うようにしているんです」
「じゃあ、来なくなった女性が時を超えてまた現れたらどう思うのかな?」
「1度や2度なら『懐かしい』で終わるんですが、そのまま再び常連になってしまったりすると『また心が病んだんだな』と思ってしまいます。そして大抵その予想は当たります」
「彼氏と別れたとか、離婚したとか?」
「そうですね、大抵男がらみが多いですが、仕事を辞めたとかそういう場合もあります」
「つまり、女性の一人客は『来なくなったら幸せでいると思え』ということかな?」
「来なくなったらおめでとうということです」
私は彼との会話を楽しみながら、何人もの顔を思い浮かべていた。店としては常連客を失うのが厳しいが、幸せになっているならばそれでいい。ここは人生の駆け込み寺みたいなものなのだから・・・。
 

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