Bloody's Tea Room Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ 2018/02/18 15:32更新
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〜Story15〜
Aesthetics
「よう!」 遅い時間に一人でやってきた奴に、私は気軽に声をかけた。彼は私の店の並びにあるレストランでアルバイトをしているフリーターだ。 「こんばんは。」 同じ界隈で飲食店で働くものとして、奴は私に対して敬語を使う。私も奴とはバーテンダーと客というよりも兄貴と弟のように接している。 「ビールをお願いします。」 奴は疲れたようにカウンターに腰を下ろした。 「なんだよ。若いくせにへばったのか?それとも女に振られたか?」 私は生ビールを奴の前に置きながらからかった。 「彼女なんか作る暇ないですよ〜。もう朝からこの時間まで働きづめでヘトヘト。」 「だらしないな〜。ほら、ビール飲んで元気出せ!」 それを聞いていた常連客の一人が口を開いた。 「そう、男は忙しいときほど女を作るもんだよ。」 私は奴を彼に任せることにした。 「そうそう、そういえば彼女とはうまくいってるんですか?」 「ん?」 彼は少し言いよどむと 「ヤバい感じ」 とだけ答えた。 「だってあんな美人そういないでしょ〜。もしかしてもう飽きちゃったとか?」 「いやいや、そういうわけじゃないんだけどさ、ちょっと別の・・・」 「えっ!別の女?」 「いや、何で忙しいときに限ってモテるんだかなあ。」 そう言って彼は笑った。 「多分、男が仕事に打ち込んでいる姿に女は惹かれるんだろうな。俺がモテるなんてありえないことだからな。」 私は彼の言葉を引き取って付け加えた。 「この人なんか超絶美人を付き合っていながらモテすぎて困るってよ。でもそれって男の美学だろ?」 「そうそう。忙しいから時間がないのに新しい女口説いたりしてな。」 奴は疑心暗鬼の様に首を傾げながらビールを半分飲み干した。 「ホントですか?そんなもんなのかなあ。」 「そうそう。愚痴ばっかり言ってるようじゃあ女にはもてんよ。むしろ愚痴なんか言えないくらい忙しいほうがもてるさ。」 「なんか乗せられた感じだけど・・・まあ気持ち切り替えようっと」 奴はどうやら職場でのイライラがつのっているようだ。いつもならばこんな愚痴っぽい話し方はしない。 「愚痴言いたいなら別の場所にしな。誰もお前のしょぼくれた面見ながら飲みたくないからな。」 「そうそう。それ飲んだら帰れ。」 私たちはそう言って奴をちょっとからかった。奴はしばらく黙って私たちがからかうのを聞いていた。 しばらくして彼が口を開いた。 「バーってのはさ、男も女もカッコつけるもんさ。虚飾でもいいから自分をカッコよく見せようとする場所だよ。モテたい、モテる、カッコいい。そう振舞うべき場所だぜ」 奴はビールを一気に飲み干すと、お代わりを告げた。弟分はどうやら人生の先輩の教えに忠実らしい。先ほどまでの険しい顔から柔和な笑顔へと変化させていた。 「まあ、そうですよね。こんな洒落た店で愚痴ばっかり言っている奴はモテっこないな。」 「そう。バーは人間の美学のたまり場なのさ。それがたとえ一晩だけでも、一瞬だけでも『自分が一番』って振舞うべきなのさ。そうすれば自然とそういう人間になる。」 「そう。だから忙しいのはいいことだと思って早く女作れ!」 私たちはけしかける様に奴に言葉をかぶせた。2杯目のビールを一気に飲み干した奴はくすくす笑い始め、やがて私たち全員が声をあげて笑い始めた。 3人で口をそろえて出てきた言葉はこうだった。 「嘘ばっかり!」
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