Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story16〜

Court

「まったく!」
彼女はちょっと怒った口調でスマートフォンをカウンターに放り出した。先ほどから何度かメールのやり取りをしていたようだ。ひとつため息をつくと一気にグラスのジントニックを飲み干して
「もう一杯お願い。」
と告げた。
「かしこまりました。」
私はジントニックを作りながら、彼女がもう一度スマートフォンを取り出して何度も読み返すのをちらりと見ていた。
「何で最近の男はこうなのかなあ〜。」
私は彼女の前にジントニックを置きながら尋ねた。
「こう・・・と申しますと?」
「口説き方!」
彼女は半ばあきれたようにもう一度ため息をついた。
「さっきからメールで好きだの会ってくれだのいつが空いているだのと言ってくるんだけど、自分から行動するってことを知らないのかなあ。」
私はちょっと肩をすくめた。
「大体誘いをかけるなら『会いたい』じゃなくって『何をしたいから会おう』じゃないのかなあ。そりゃ会いたいって気持ちはストレートで嬉しいんだけど、会って何するのよ。ねえ。」
同意を求められた私はちょっと苦笑してこう答えた。
「男が会いたいってのは大抵のばあい下心見え見えなんじゃないですかね。ただ一緒にいたいなんてのは脳みそが本能のままに動いているだけってことです。」
「うまいこと言うのね。所詮そういう男ってことね。」
「そうです。そう思って対処したほうがいい。いちいち腹立てていたら自分のレベルが堕ちちゃいますよ。」
「そうかもね。別にロマンチックじゃなくてもいいから、『どこか一緒に行こう』とか『食事しよう』とかそう言う誘い方すればストレートじゃなくなるのにね。」
「そうなんです。男はアホなんですよ。」
「最近特にそうじゃない?」
「う〜ん。私は男に口説かれたことはありませんから。」
私がそう言うと彼女は初めて笑った。
「昔ね、こんなことがあったんだ。パリに出張で向かう飛行機の中でフランス人の男の人と隣り合わせになったのね。私は窓側の席だったんだけど、食事の時って通路側の人にちょっと手伝ってもらわないとトレイを受け取りにくいでしょ。その時にその男性がさりげなく手助けしてくれたの。それがきっかけでパリまでのフライト中にいろいろ話をしたのね。もちろん私はフランス語は話せないから、お互いに母国語ではない英語で。滞在するホテル名と私の名前だけは教えたんだけど、当時は携帯電話もなかったから連絡先は教えられなかった。彼とは飛行機を降りたところで別れたのだけど、ホテルにチェックインしてみてびっくり。なんと彼から花束と一緒にメッセージカードが届いていたの。そこには彼の連絡先と、翌日のディナーの誘いが書かれていたのね。もちろん彼に連絡を取って一緒にディナーを楽しんだのだけど私は出張中の身だからその後は何もなし。日本の連絡先は教えたのだけど、その後は連絡することも会うこともなかった。でも、あの誘い方は今までの中で一番感動したな。」
「それはすごい経験ですね。海外でなかったら、出張でなかったらそのままお付き合いが始まっていたかもしれませんね。」
「別にそれと同じことを望んでいるわけではないのだけど、女心のツボを押さえた口説き方をしてほしいものだわ。」
彼女は一気に話し終えると、ジントニックを飲み干し、空のグラスを片手に遠くを見つめていた。おそらく今の経験話は20年ほど前のことだろう。彼女の顔は20代前半の若さを取り戻しているように私には見えた。女性は素敵な恋をするといつまでも若いのかもしれない。でもその若さを引き出すのは隣にいる男の質にかかっているのだと私は思う。私はグラスを取り出すと素早くシェーカーを振り、一つのカクテルを彼女の前に差し出した。
「店からです。いいお話を聞かせていただきました。」
「ありがとう。これは?」
「シェイクしたウォッカマティーニです。」
「ジェームス・ボンドが飲むお酒ね。彼の様なスマートな口説き方をされてみたいものだわ。」
彼女はウォッカマティーニをちょっと口につけると
「今の私には強すぎる刺激かな。」
と笑った。
 

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