Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story17〜

Independent

「マスター!」
情けない声を出して奴が入ってきた。奴がこういう声で入ってくるときは必ず理由が決まっている。そう、女に振られた時だ。もう10年ほどの付き合いになるが、何度見た光景か?
「また振られたのか?」
「そうなんですよ〜。聞いてくださいよ。あいつ、俺は頼りないっていうんですよ。他に男が出来たならそれでいいじゃないですか。それを俺が頼りないって俺を責めるんですよ。」
「だってその通りだからしょうがないじゃないか。」
私は突き放すように奴をいじめることにした。奴は学生だった頃にバイトとして私の下で働いていたことがある。奴の実家は学校からも今の職場からも近く、未だに実家から通っている。従って金に苦労することはなく、派手に遊ぶので女性から見れば遊ぶにはいい相手というわけだ。しかし、その分甘ちゃんであることも確かで、バーテンダーと客という立場になっても、私は奴に厳しく接するようにしていた。
「これでお前には大きな未来が開けたんだよ。一人の女に縛られず、自由にこの後女を選べる。」
「そんなに簡単じゃないですよ。だって俺、もう30過ぎですよ。少しは結婚とか考えなきゃいけないじゃないですか。」
「なら見合いすれば?手っ取り早いぜ。そもそもお前は理想を求めすぎるんだよ。自分が半人前なのに相手に理想求めてちゃな。」
「そんなに理想高くないですよ。優しくて家庭的ならOKです。誰かいないですか?」
「少しは女に振られた反省期間でも設けるんだな。振られた反省しなきゃどうせ次の女にも振られる。」
「さっきは自由に女を選べるって言ってたじゃないですか。」
「それは相手がお前を好きになってくれたらの話だ。」
「どうしたらモテるんですか?」
「あのなあ。モテるというよりもモテるように自分を磨くってことだろ?だからまずは振られた反省をしろ。」
「頼りないって言われてもなあ・・・」
奴はしばらく彼女から言われた別れの言葉を反芻していたようだった。私は奴が反省している間、他のお客様の相手に忙しかった。なんせ振られてやけ酒を飲んでいるあいつに付き合い続けるとろくなことがない。最後は朝まで付き合わされるパターンに決まっている。
「マスター、お代わりぃ。」
私は仕方なく奴の前に戻った。奴の飲んでいたビールのお代わりは出さなかった。
「反省は終わったのか?」
と尋ねた。
「頼りないってことは頼れるような強さを持てってことでしょ。一応仕事もちゃんとやってるし、そこそこ収入もあるし。」
私は奴の言葉を遮ってこう聞いた。
「お前、自分が自立していると思っているのか?結婚とかいろいろ言ってるけど、結婚したらどこに住むんだ?そのための資金は貯めているのか?嫁さん食わしていけるだけの収入はあるのか?」
「金は貯めてますけど、結婚相手が決まってから考えればいいじゃないですか。」
「あのな、女はまずは安定を求めるんだ。だから30過ぎて実家の世話になっている男なんか眼中にないぜ。大体結婚したら両親と一緒に住めと言われかねない奴と付き合いたいと思うか?」
「あ・・・結婚したら実家は出ます。」
「そうじゃなくって。少なくともお前の歳で一人暮らしの一度も経験していない奴はモテるわけがないと言っているんだ。親から独立して一人で生活してゆくことの経験や厳しさを知らないっていうのは致命的なんだよ。」
「つまり、俺は自立できていないってことになるんですね。」
「そう。まずは1人暮らしでも始めてみるんだな。自分の給料の範囲でできることとできないことの厳しさがわかるさ。」
私はそう言い放つと、奴の前にグラスを一つ置き、酒を注いで火をつけた。
「グランモーレンジだ。こいつはアルコール度数が高いから良く燃える。こういうごつい酒でも飲んで早く帰って寝ろ。」
今日のお説教は奴にとってはかなり身に染みたようだ。留めのグランモーレンジで消毒できればよいのだが。次回、奴がここに来る日は1人暮らしを始めたときになるだろう。
 

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