Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story19〜

Trash

私の店の客は比較的年配の方が多い。値段もちょっと高いほうだし、つまみ類も簡単なものしか置いていないので、若い人には入りにくいと思う。もっとも若い連中が大騒ぎするようだとこちらとしても願い下げだ。
しかし、中には一人でふらりとやってくる学生客などもいる。どうやら彼らは私のことを兄貴か何かだと思っているようだ。それはそれでなかなか面白い。

日付変更線を超えるころ、店内に客はなく私は1人でビールグラスを傾けていた。今日はさっぱりだ。開店してからの客はたった2人。オーダーは全部でカクテル5杯。あと1時間営業して誰も来なかったら今日は店を閉めようと思っていた頃、ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
彼女はまだ20歳になったばかりの学生だ。20歳そこそこでバーに一人で来るとはいい度胸をしていると最初は思ったものだ。しかし、女というのは魔性の生き物なのかもしれない。20歳そこそこと言っても男に比べたら十分に大人の考えを持っているし、下手するとこっちがあしらわれてしまいそうだ。
「珍しいね。明日学校は?」
「明日は午後から。だからいいの」
何がいいのかわからないが、私は彼女がこの店で必ず最初に注文するダイキリを作り始めた。
「ねえ、マスター。男の人ってさ、誰でもいいのかな?」
いきなり核心かよ!と思いながら私は彼女へ視線を向けた。いつになく真剣な目をしている。これは本気で相談モードかもしれない。
「なんだ?彼に振られたのか?」
「いや、そうじゃなくって。何か彼を見ているとあたしじゃなくてもいいんじゃないかと思うことがよくあるんだよね。誰にでも優しいし、人気者だから常に周りに人がいるし」
「そりゃ『誰でもいい』んじゃなくて『モテる』ってだけじゃないか。モテる男と付き合ってるだけなんだからいいんじゃないの?」
「そうなんだけど、なんか引っかかるんだよね」
多分、彼女の勘は正しいのだろうと私は思った。女性の勘というものは鋭い。怖い怖い。
「まあ、彼のことは置いておくとしても、男はみんな屑だよ」
「ええっ!そんな夢のないこと言うんだ」
「だって実際そうだから。俺だって所詮屑だよ。はい、ダイキリお待たせしました」
「ありがとう。でも、どういうところが屑なの?」
「やっぱりいい女を見るとフラフラ気持ちが揺れるしさ、一晩だけの付き合いでもいいやとか思ったりするし」
「それが男なの?実際に本当の屑みたいな奴って見たことある?」
「そうそう。まあ自分も屑ってことを置いといて、こんな話があったよ。前に働いていた店で結構イケメンで愛想もいいやつがいたんだけど、ある日店に女の子が怒鳴り込んできたんだ。その人はまっすぐにそいつのところに行って、『この女ったらし』と言いながら平手でそいつを張り倒したんだよ」
「ええっ!やるぅ〜」
「それから店の中は大騒ぎさ。そいつは彼女に殴り掛かるし。ようやく騒ぎを鎮めてそいつを店の裏に引っ張って行って、彼女には『あいつから事情を聴くから俺たちに任せてくれ』って帰ってもらって。もちろん痴話喧嘩だってことは明らかでしょ」
「うんうん、それで」
「どうやらそいつは店のお客さんと片っ端から付き合っていたらしいんだな。しかもよりもよってその彼女の友達にも手を出したらしい」
「うわ〜、最低!」
「だろ?まあ、そんなのは本当の屑だけど、男ってみんなそんなもんだと思ったほうがいいよ」
「それで、私はどうすればいいのかな?」
「捨てるのが最善の策!」
私はきっぱりと言い切った。彼女の目が一回り大きくなった気がした。
「え?」
「屑ってゴミのことでしょ。だから捨てちゃえばいい。まずは一度屑だと思って捨てちゃう。でも本当の屑ではないのなら自分でゴミ箱から出てくるはずだよ」
「いきなり別れ話?」
「いやいや、そこは上手くやるんだよ。さっき俺に話したような『誰でもいいの?』みたいな攻め方でさ」
「ふ〜ん。なるほどね〜。相手が焦ったら本気ってこと?」
「それはわからないよ。だって屑だから」
そう言って私は笑った。つられるように彼女は天を仰いで笑い出した。
「自分の目で判断しろってことですね〜。兄貴、参考になりました!」
彼女はそう言うとダイキリを一気に飲み干して1000円札を1枚カウンターに置いた。
「ごちそう様でした」
ツカツカと扉に向かう彼女の後ろ姿を見ながら私は声をかけた。
「釣りは相談料に取っておくぞ」
今日は売上6杯だけかよ。ため息をついた私の視線の先にはほとんど空のごみ箱が見えた。

メニューへ

inserted by FC2 system