Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story20〜

Friends

「最近あいつは来てる?」
ふいに話しかけられた。常連の中でも長い付き合いになる彼は、大抵1人でやってきて静かに飲んでいることが多い。私も話しかけられるまではそっとしておくのがいつものスタイルだ。ただ、話し始めるとディープな会話になるのも彼の特徴だ。
「誰ですか?」
「前に良く僕と来たことがある奴がいただろう?ちょっと気障な奴」
「ああ。彼ですか。あまりお見かけしませんね。どうやらこの店は敬遠されているようです」
「何でそう思う?」
「いや、一度友人の方とお二人でお見えになったんですが、その時にちょっと我が物顔のような常連気取りで・・・」
「なるほど。大体分かった。それ以上聞かなくても。」
彼は鋭いのでその先の状況を察したらしい。実際その二人連れは1人で来ていた女性客に絡み、私が出入り禁止を言い渡したのだった。
「お友達なんですよね?」
私は彼に尋ねた。この店に連れてくるということは彼にとってかなり親しい友人のはずだ。実際、彼は隠れ家のようにこの店を使っているので、友人も彼女もほとんど連れてくることはない。その彼が連れてきたということは、親友と言ってもいい関係にあったはずだ。
「実はね。ちょっと幻滅するような事件があってね。彼はとてもいい人なんだけど、自分の思い通りにいかないと切れるんだ。それも後先考えずに切れてしまう。その後始末は結構大変だったりする。だからちょっと距離を置くことにした」
「なるほど。そうでしたか。この店で切れるようなことはありませんでしたが、ちょっと自己中心的な振る舞いをされたので注意したことはあります」
「問題は程度なんだよね。笑って許せる範囲ならいいんだけど、周囲に迷惑がかかったり、人の縄張りに土足で踏み込んでくるような振る舞いはいくら親友でも許せないよね」
「土足で踏み込まれたんですか?」
「そういうわけではないんだけど、元々自分なりに持っている縄張りってあるじゃない。例えばこの店とか」
「はい」
「そういうところで知り合った自分の友人たちに対して、自分のいないところで声かけて知り合いになって、いつの間にか親しくなってましたみたいなのってちょっと嫌なんだよね。乗っ取られたようなそんな気分になってさ。そんなこと考える自分が小さいと思うんだけどね」
「なんかわかりますよ。特に彼は誰でも仲良くなれる性格ですしね」
「それでちょっと言ってみた。あるお店のイベントで。元々俺の友人なのに何でお前が一緒に連れてくるんだ?ってね」
「そういうシチュエーションでしたか」
「そうしたらいきなり切れられた。お前のものじゃないだろ?ってね。まあその通りなんだけど」
「その友人って女の人ですよね?」
「そう。バレバレだね。僕はちょっとその彼女のことをいいなと思ってたんだよ。泥棒猫にさらわれた気分さ。彼の言うことがもっともだから何も言えないよね。でも友達としてはちょっと今後は付き合えないと思った」
「いいんじゃないですか?それで」
「え?」
「私が思うに彼は最悪ですよ。あれだけ親しかったんだから気持ちくらい読めるでしょう?それをあなたがいないところであなたが気に入っている女性を誘っているなんて泥棒猫でしょう?男らしくないですよ」
「そうか。やっぱり誰でもそう思うんだな。ちょっとほっとした」
「ついでに言わせていただければ、そういう友人がいることがあなたにとって汚点になりかねないですよ。だってそういう人っていろいろな場所でそういう行為をする可能性があるってことでしょう?その人と友人であると、あなたもその同類と思われてしまうかもしれない」
「それは考え付かなかったな」
「お店に来るお客さんを見るときにね、私は連れてくる友人を観察するんですよ。その人がいい人でも友人のマナーがなってなかったりするとその人の価値が下がったように見えてしまいます」
「でもさ、彼だってその彼女が好きになったのかもしれないじゃないか。君が彼だったらどういう行動をとったと思う?」
「多分あなたにきちんと話したと思いますよ。もしくはあなたに責められたときに『ごめん』と謝りますね。言い出せなかったことだってあるでしょうし。でもそこで切れるようなことはしないと思いますよ」
「まあ大抵人間関係が壊れてゆくのは男と女のことだからなあ」
そう言って彼は笑った。
「でも、長い付き合いができる友人というのは何でも話せる関係のはずだよね。相手への思いやりがお互い足りなかったということなのかもしれないな」
私は彼の言葉を背中で聴きながらCDラックから1枚の古いアルバムを取り出した。オーディオにセットして向き直り
「こんな歌でもたまには聴いて、旧交を温めますか!」
と返した。スピーカーからは私の店におよそ似つかわしくないレベッカの「Friends」が流れ始めた。
彼は目を丸くして私を見つめていたが、やがて噴き出して笑い始めた。
「全然似合わねぇ!」

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