Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story4〜

Field Test

「目黒君、準備はできた?」
「は〜い。いつでも出発できます!」
車関係の家電品と言うと最近はオーディオよりもナビゲーションのほうが主流になってきている。とりわけわが社でもナビゲーションには力を入れていて、今回初めてX社に対してナビゲーションを納入するという仕事が決まった。オーディオと違ってナビゲーションの場合は実際に外を走行してみてわかることも多いわけで、我らが品質管理6課でも実走行テストには力を入れている。新しい仕事でもあるので課長である私自身がその動作確認をしておくことも重要だ。現場主義の実践、実にいい響きだ。
というわけで今日はナビゲーション担当の目黒君にドライバーを任せて、私自身がナビゲーションの動作チェックをするために実走行試験へ出かけることにした。東京都内、特に首都高速は分岐、合流の連続で、ナビゲーションの動作としてはかなり多くのメモリを必要とする。そこでスムーズに動作するかどうかを確認するのが目的だ。
「じゃあ出かけようか。ルートは大丈夫?」
「はい。ナビでルート設定してありますから。」
?テストするナビでルート設定?何となく違和感を感じた私だったが、まあ担当の目黒君は実走行テストの経験も豊富だし任せておこう。
都内に出るまでは1時間ほど高速道路を走らなければならない。まっすぐで間違えようのない道なのでナビゲーションの動作も順調だ。私は目黒君と車内でこのナビゲーションの出来栄えについて語っていた。
「デザインはいいんだけど、この画面の色がちょっと白っぽ過ぎるよね。この辺のデフォルトは変えた方がいいなあ。」
「はい、自分もそう思いましたので指摘してあります。」
うんうん、良くやった。
「案内音声って音が大きすぎないか?」
「これも次のソフトウェアでデフォルトを対策します。ちなみに音量はこんな感じです。」
目黒君は手早く音声設定を操作して若干音を小さくした。
うん、このくらいのボリュームがちょうどいいだろう。いい仕事しているじゃないか。
目黒君の仕事ぶりに感心していた。
「目黒君入社2年目だよねえ。結構他の部門に意見したりしていてすごいじゃないか。」
「いやあまだまだです。ベテランの高田さんが自家用車に取り付けてテストしてくれているところから意見をもらったりするんですよ。」
高田さんはクルマ好きとも言ってもいい人だから、この手のモニターテストにはうってつけだ。上手く先輩を利用しているじゃないか。

やがて難関の首都高速道路に突入した。首都高速は「首都拘束」と言われるほどの渋滞の名所。でもこの日は妙に空いていた。この頃から目黒君の口数が少なくなっていた。
「およそ500m先、竹橋ジャンクションを左方向です。」
ナビゲーションが正確に誘導した。首都高速環状線の外回りに
進入するのだ。
ん?まだ右車線にいるぞ?
「目黒君、左だけど大丈夫だよね?竹橋は本線全てが右に行っちゃうから左のレーンから分岐だよ。」
返事がない・・・私はふと右の目黒君に目をやった。すると首をしきりに左に振っている目黒君と目が合った。目黒君の目は血走っていた。
「あ、危ないから無理しなくていいよ〜。」
「はい!」
そう言いながら半ば強引に左にレーンチェンジした時はもう遅かった。ジャンクションの分岐を過ぎて内回りに入るコースへと侵入していた。
「リルートします。」
ナビゲーションからは明るいお姉ちゃんの声がミスコースを告げている。ナビゲーションはなかなか優秀だ。でも、確かこのレーンは右に合流してなくなっちゃうんじゃ・・・。その時急減速のGで体が前に倒れた。
「ど、どうした?」
目黒君を見ると目を見開いて前方を凝視している。車は左レーンに停止していた。クラクションを鳴らしながら周囲の車がよけてゆく。
「レーンがなくなってます。」
「仕方ないよ。右に合流しよう。」
目黒君は黙っている。
「どうした?」
「こ、こんな道運転できません!いつもはノロノロ運転だから大丈夫でしたけど、こんなに空いているんですからレーンチェンジなんて無理です!」
目黒君の声は叫びに近かった。
そうだった・・・こいつ、北海道出身だ。こんなに狭くて交通量の多くて、スピードも出る道なんかほとんど運転したことがないんだ。
「仕方ない。俺が代わるよ。交代しよう。」
私たちは狭い車内でお互いの着座位置を入れ替え、私の運転でスタートした。ナビゲーションはきちんとリルートを完了して順調に動作している。しかし、元々設定した道に戻ろうとするのでリルートのオンパレード。つまりCPUはフル稼働していて実にいい実験だ。そして首都高速は私にとって走り慣れた道だ。ナビゲーションなんか見なくても運転できる・・・ってそれじゃあ全然意味ねえじゃん!
「課長、ナビは順調です。しっかし、課長の運転スムーズですね。」
お前の運転がへたくそなだけだ。
「こんなことなら最初から課長に運転してもらえばよかったなあ。」
・・・なんか間違ってるぞ、お前・・・
会社に戻ったらドライバー要員の派遣社員でも募集掛けようと私は固く誓った。

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