Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story5〜

Signature

「君、何しに来たの?」
私の元に技術10課の若い技術者がやってきた。特別採用連絡書という「設計寸法と違っちゃったものが出来たんだけど使えるから使っていいよね?」っていう書類にサインをしてくれという。許可を与えるのは私の仕事なので、私に直接持参したのは何ら間違っていない。問題はその依頼の仕方だ。
「あの〜、上野課長にサイン貰ってこいと言われました。」
おひおひ、説明なしかよ。
「それ、どんな部品でどういう寸法がおかしいわけ?何で使っていいわけ?」
「いやあ、私は課長からサイン貰ってこいと言われただけなんで良くわかりません。」
マジかよ。
「あのねえ、これは特別採用連絡書っていってとても重要な書類なわけ。だから中身の説明も聞かずにサインできるわけないでしょ。」
「はあ。」
「はあって・・・君は課長に命令されたら何でもやるのか?その意味も分からずに行動するのか?」
「まあ、命令っすから。」
ほとほとあきれるわ。こんなのばっかりだよ、最近の若いもんは。おっと、私も若いんだった。若いもんとか言うと自分が歳食ったことを認めることになっちまう。
「ガキの使いじゃあるめえし、書類持って帰って課長に言っとけ。ロボットみたいな使いをよこすんじゃねえってな。」
とりあえず門前払いを食らわせて少しはすっきりしたものの、あ〜〜腹が立つ。

「代々木君、あいつお前の同期?」
私は手元の書類を読みながら我が課の最年少ホープ、代々木君に声をかけた。
「あ、そうっす。あいつ結構おとなしいやつなんで、今のはかなり堪えたと思いますよ。」
「そうか。そのまま会社に来なくなっちまったら後味悪いから、ちょっとフォローしとこうかな。」
ん?この書類・・・技術10課への依頼書じゃないか。作成者は・・・代々木君か。
「あ、ちょうどいいや。この書類、代々木君が作ったんだよね。これって直接お願いに行った方がいいから持って行ってくれるかな。」
「はい、わかりました。技術10課の課長に持ってゆけばいいんですよね。」
「うん、お願いするんだから課長がいいだろうね。ついでに彼に『落ち込むな』って声でも掛けてやれよ。よろしく。」
でも・・・ちょっと嫌な予感がした・・・・

10分後、私の構内携帯電話が鳴った。発信者は・・・技術10課の田端課長。とてもとても嫌な予感がする。
「はい、上野です。」
「技術10課の田端です。」
田端課長は温厚で有名な課長なのだが、ちょっと口調が違う・・・。
「今ね、お宅の代々木君が目の前にいるんですけど、この依頼書って何?」
「それは今の市場で起きているトラブルの対策パーツの設計を開始して欲しいという依頼書なんですが。」
「うん。なんで技術10課がこの設計をするんだっけ?」
このトラブルは本来技術9課設計の部品のトラブルなのだが、そこを対策するよりは技術10課の担当パーツのほうを対策した方が安いし早いということで担当者間会議で今日決まったばかりの話。
「代々木に説明する様に言ったんですが、聞いてませんか?」
「聞いてない。」
やべえ、田端課長のこんなに怒ってる口調は初めてかも。
「申し訳ないです。代々木に代わってもらえますか?」
あいつ、まさか・・・
「代々木君、田端課長になんて説明したんだ?」
「いや、この書類にサインしてくださいって・・・。」
終わった・・・
「そうじゃなくってさ、サイン貰うためには背景説明ってやつが必要だろ?今朝の担当者会議の結果、きちんと田端課長に説明しろよ。」
「背景説明っすか?」
あかん、全然わかってない・・・
「だからさ、技術9課のトラブルの尻拭いをお願いするんだろ?だから技術10課に頼むことになった経緯を議事録とかで説明するんだよ。」
「わかりました。トラブルの背景から説明すればいいんですね。」
だんだん腹が立ってきた・・・
「頼むよ、全く。ガキの使いじゃあるめえし。田端課長に代わって。」
んったく、最近の若いもん・・・おっといけねえ。
「田端です。」
「すみません。代々木からもう一度説明させますんで聞いてやってください。はい、失礼しました。」
電話を切った私は電話を置いて天を仰いだ。
ふと、人の気配を感じて前を見ると大崎女史が書類を持って立っている。
「課長、ハンコ下さい。」
大崎君、君まで・・・
「だから、書類は説明してから承認貰えってば。」
思わず口走った私の顔を大崎女史が覗き込んだ。
「説明が必要なんでしたっけ?」
彼女の差し出した書類は出張旅費精算書だった・・・。
・・・いつも彼女は正しい・・・

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