〜Story8〜
Business Trip
「来週の上海、私が行きましょうか？」
私は
巣鴨係長に声をかけた。1か月ほど前から上海にある工場に対するX社の工程監査が予定されていて、巣鴨係長がその現地サポートに行くことになっていたのだ。ところが先週になって別件のトラブルが発生し、巣鴨係長が指揮を取って解決に向かっていたのだが、その最終報告を行う日程と出張日程が重なってしまったのだ。今日は金曜日。監査日程まであと1週間だ。
「大丈夫ですよ。報告に行くのは水曜日ですから、金曜日の上海監査には間に合います。」
「それってどういう日程で行くの？帰ってきてからの社内後始末もあるでしょ？」
「浦東空港だと日帰りが難しいんですが、羽田ー虹橋の便であれば当日朝に出発しても間に合います。」
さすが巣鴨係長。責任感があるから全部自分でこなそうと思っているんだな。ここは私がきちんとバックアップしてあげないとな。課長たるもの、部下のバックアップは常に行うべし！
「でも、現地での事前準備とかあるでしょ？だったらここは分担したほうがいいと思うんですけど。」
巣鴨係長はちょっと思案していたが、やがてこう言った。
「わかりました。では私が行く日程でチケット手配してありますんで、大崎さんに言って課長に変更しておきます。準備はほぼ万端ですので行くだけで大丈夫です。」
さすが！
「はい。じゃあ大崎さんと私のほうで日程などは確認しておきます。でも、当日出発してお客様と一緒に現地入りというのは良くないと思うんですよ。ですから前日入りする日程で組みなおしましょう。」
いくらなんでも当日移動してそのまま監査同行ってのはねえ〜。
「そうですね。課長が行ってくれるなら前日移動でもいいですもんね。」
「じゃあトラブル処理のほうをよろしくお願いします。」
その日の午後、大崎女史がチケットを持って私のところにやってきた。
「課長、来週の上海出張のチケット届きました。受け取りにサインお願いします。」
「あ、ありがとう」
私はチケットを受け取ると受け取りにサインしながら旅程を確認した・・・・。ん？
木曜日：成田発19:30−浦東22:10
土曜日：虹橋発9:00−羽田12:30
なんだ？これ？木曜日はもっと早い便でもいいじゃない。土曜日はゆっくり帰ってきたいじゃない・・・。
「大崎君、これって巣鴨係長から依頼された日程？」
「はい。元々帰りの便は巣鴨係長が手配されていた便です。行きの便は金曜日の羽田発9:30だったものを木曜日の成田発最終便に変更しました。」
それはわかってるんだってば。何でこんなにせわしない日程になっているんだよ〜！と氷の女に聞いてもわからないだろな。
「あ、そう、ありがとう。巣鴨さんに確認してみるよ。」
しばらく経って巣鴨係長がフロアに戻ってきた。
「巣鴨さん、ちょっと確認したいことがあるんですが。」
「はい。」
「この日程なんですけどね。何でこんなにせわしないんでしたっけ？」
「あ、ご説明するのを忘れてました。金曜日の朝一便だと課長が事前に工程を見る時間がないので、木曜日の最終便で現地に入ってもらって金曜日の午前中に工程確認をお願いします。」
それはわかってるんだってば。何で【最終便】なの？ってのが最大の疑問なんだな〜。
「でも、もっと早い便で入ってもいいと思うし、木曜日に事前確認したほうがいいんじゃないかなあ。」
「木曜日の午前中は会社にいていただきたいんです。前日の報告もありますし。あと部課長会もあるんじゃなかったでしたっけ？」
それに出たくないから出張行きたいんじゃないか〜！
「そ、そうか・・・。そうだね。それと何で土曜日はこんなに早い便なの？」
「これで帰ってくれば会社に15時には出社できますから。」
ぎょ！土曜日に出社しろってか〜？
「え？だって土曜日だよ？」
「え？課長、この日は出勤日ですよ。先日の3連休の振り替え出勤日です。」
ひょえ〜〜！忘れてた〜！
「しかもその日は土曜日出勤で早く終わるだろうからって課長が飲み会セッティングしてたじゃないですか。『上野会』。帰ってこなきゃまずいですよね。」
上野東気、一生の不覚！
「あ、気を遣わせちゃってごめんなさい。そういうことね。ありがとうございました。」
課長たるもの、部下のバックアップはほどほどにした方がいい。そして私の胸に新たな教訓が生まれた。
・・・出張日程は自分自身で立てるべし・・・
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