Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story10〜

Report

「目黒君、ちょっと来てくれる?」
私は自席からフロアから出て行こうとしていた目黒君の背中に向かって声をかけた。
「はい?」
目黒君は怪訝そうな顔で振り返った。手元に部品をいくつか持っている。おそらく解析のためにサプライヤーに提出する部品だろう。ちょっと急いでいるらしい。
「急いでいるなら後でいいけど。」
「いえ、今日のうちに渡せばいい部品なんで大丈夫です。」
「そう、じゃあちょっと。」
私は目黒君を自席の前の椅子に腰かけさせた。私の机の前にはじっくり話せるようにと椅子が一脚置いてある。一人が立っていて一人が座っているというのはフェアじゃないというのが私の考えだ。
「目黒君の書いたこの報告書なんだけど・・・」
私は話を切り出しながら目黒君の前に書類を置いた。
「これ、読み返してみた?」
目黒君はちらりと書類を見ると、
「ああ、これですね。はい、もちろん。何度も読み返して誤字脱字チェックしました。」
「うん、誤字脱字はないんだけどね。何というか、、何を言いたいのかよくわからないんだよ。」
「いや、これは先日客先で発生した不具合の報告書で、朝礼でも課長に報告したじゃないですか。」
「いやいや、それはわかってる。問題はこの報告書を読んだだけでは『何を報告しているか?』がわからないということなんだ。例えばこの不具合の原因は何だ?」
「トランジスタが壊れていたということですが。」
「そのトランジスタが壊れた原因は?」
「導電性の異物がコネクタの端子間に挟まっていたからです。」
「そうだろ?だったら報告書には『原因は導電性異物がコネクタに挟まったから。その結果トランジスタが壊れて動作しなくなった』という書き方になるはずだろ?」
「はい。そう書いたつもりですが。」
「でもね、この報告書を読むとトランジスタが壊れたことがクローズアップされてしまっていて、真の原因である導電性異物は霞んでしまっているんだ。」
「・・・・」
「だから、前から指導しているように報告書というのは『結論から書く』『メカニズムは時系列で書く』『箇条書きで書く』が鉄則なんだよ。これじゃあ作文だろ?」
「はい・・・・」
「報告書っていうのは独り歩きするんだ。いつも君が横にいて説明してくれるわけじゃない。だからその報告書を見ただけで『何が言いたいのか?』が伝わらなければ意味がないんだよ。」
「なるほど」
「その辺、学生時代の実験レポートとかで教わっただろ?表紙に結論を必ず書いて、表紙だけで相手に伝わるようにするとか。」
「はい」
「X自動車では報告書はA4一枚でまとめろと言う社内規律があるそうだぞ。シンプルでかつわかりやすい報告書、もう一度まとめてみろ」
神妙に聞いていた目黒君だったが、最後の「シンプルでわかりやすい」という言葉を聞いたときにピンと来たようだ。
「わかりました。書き直します。」
その時私の目はふと彼の手元の紙に向いた。部品解析の依頼書だ。なんだか文字が少ない。
「ちょっと見せて。」
私は彼の手から依頼書を受け取ると文面を読んだ。
「トランジスタが破壊しています。エミッタとベースの間に4Aが流れたと推測されます。再現実験をお願いします」
とてもシンプルでわかりやすい。
「目黒君、これだよ。必要なことを簡潔に相手に伝える文章というのは。できるじゃないか!」
ちょっと落ち込み気味だった目黒君はこの言葉で元気を取り戻したようだ。
「はい!わかりました。書き直します!結論から書くんですね、シンプルに!」
彼は元気よく椅子から立ち上がった。

1時間後、ちょっとしたミーティングで席を外していた私が自席に戻ると、決済箱に目黒君が書いた書き直しレポートが入っていた。どれどれ、上手く書けたかな?報告書を手に取ると1枚しかない。ん?X自動車の社内規律を早くも実践してみたということか?
「ん?」
そこにはたった1行、こう記してあった。
「原因:導電性異物によるショート」
おいおい、結論から書けとは言ったが結論しか書くなとは言ってないぞ。んでシンプルの意味があいつにはわかっとらん。
私は立ち上がると大声で叫んだ。
「目黒!」
・・・まあ、真面目で忠実と言えば忠実なんだが・・・

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