Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story11〜

Your Object

「ということで、今年から各自の目標管理シートを導入することになりました。」
私の課では毎週月曜日に朝礼時間に会議室に入って朝礼では伝えきれないような重要な伝達事項を伝えるミーティングをすることにしている。今日の話題は今季から導入されることになった目標管理シートに関する話だ。毎年査定時期に面接をして、各自の1年間の成果を上司と話し合う時間を設けてきてはいたが、各自の目標管理を実施して「自ら宣言した仕事をやり遂げる」というスタイルに変えようと、人事が宣言したのだ。
「それって目標設定の時にも面接をするんですか?」
巣鴨係長が質問の口火を切った。
「そう。前は1回だった面接が2回になるという話です。」
「めんどうくさいなあ。」
この手の活動には消極的な高田さんが不平を垂れる。
「一番面倒くさいのは僕ですよ。なんせ全員と面接するんだから。でも時間も取りにくいので、うちの課では査定面接のときに同時に目標設定面接も兼ねてしまおうかと思ってます。そうすれば面接は1回で済むし、前年度の実績をレビューしながら今季の目標を立てられるし、一石二鳥でしょ。だから他の課に比べて私への提出時期を早くしてもらいたいんです。」
「じゃあ、課の方針とかは早く出してもらわなきゃいけませんよね。でも、部の方針なんかいつも今期に入ってからしか出てこないしなあ。」
品川係長、それ部長に言ってくんない?
「まあ部の方針は置いといて、課の方針は前から掲げている『スピード』で行こうと思うんだ。細かい方針を立てると各自の取り組み自由度が減るだろ?」
「そうですね。方針は細かすぎないほうがいいと思います。」
「そのほかに質問は?」
「じゃあこのシートにある項目ごとに、『スピード』に関する目標を自分自身で立てて書くということですね?」
大崎君、君はいつも確認が細かいねえ。
「そう。項目は3つあるだろ?『自分の目標』は仕事をする上でスピードに心掛けて何をするか?『組織への貢献』は課や部に対してどうやってスピードに貢献するか?『自己啓発』は自分自身を磨くためにスピードを持って取り組むことを書いてくれればいいよ。」
ここまで説明すれば大丈夫だろう。
「自己啓発でスピードってどんなことでしょうか?」
大崎君、今日は食い下がるじゃないか。
「いろいろあるだろ?ジョギングやってる人は速くなりたいとか、寝坊の多い人は5分早く起きるとか、要は日常生活で『これをやろう』と思ったことは大抵スピードにつながるんじゃないか?」
大崎女史は具体例を聞いてピンと来たようだ。
「はい!良くわかりました!」

ミーティングから2週間経過し、各自の目標管理シート締切の日となった。両係長が締切1週間前までに提出してきたのはさすがだ。一番遅いと思われた高田さんと馬場さんも昨日までには提出してくれた。目標管理シートは各自が記入した後に上司がコメントを入れなければならないので、早く提出してくれるとそれだけ私にゆとりが生まれることになる。みんなわかっていらっしゃる!
ん?大崎女史がまだ提出してこない。いつも仕事が早い彼女にしては珍しいな・・・
「大崎君、目標管理シートの締め切り、今日だけど大丈夫だよね?」
経費伝票を整理していた大崎女史に私は声をかけた。
「あ、はい。」
大崎女史は机の引き出しから封筒を1つ取り出した。ん?封筒?
「これ、遅くなりました。よろしくお願いします。」
封筒を受け取り、中を見ると目標管理シートが入っている。なんだ、大崎君ちゃんと書いているじゃない!
「お!ありがとう。これで最後だ。日程通り…と」
封筒を渡すと大崎女史はそそくさとフロアを後にした。なんか変だな?封筒から取り出した目標管理シートを開いて私はコメント欄に記入すべく机上に広げた。『自分の目標』は伝票処理業務の時間短縮か。いいんじゃない!しかもシンプルでわかりやすい。『組織への貢献』は残業時間削減か。他の野郎どもに聞かせてやりたいよねえ。んで『自己啓発』は・・・
「ん?結婚?」
思わず口に出して言っちまった!目を上げるとフロア中の目がこっちを向いている。
「あ、気にしないで、独り言だから・・・」
胡散臭そうな眼をしながらもフロアの目は私からそれたようだ。
目の前の目標管理シートの自己啓発欄にはたった1行書いてあった。
「今期中に結婚相手を見つける」
・・・確かに人生の大きな目標には違いない・・・

メニューへ

inserted by FC2 system