Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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〜Story12〜

Save Files

「一緒に作りましょう」
私は馬場さんの背中に向かって声をかけた。
「すみません、課長」
馬場さんは小さな声で答えた。

最近はパソコンが急速に普及して報告書などもあっという間に手書きからワープロへ、そしてパソコンを駆使した電子ファイルへと変貌している。しかし、年配の方はこのパソコンというやつが苦手な人が多いのだ。我が課のご意見番にして解析のプロフェッショナルである馬場さんもその一人。前は手書きでも一通の報告書を仕上げるのに2時間と掛からなかったのだが、パソコンを使っての作業では数倍以上かかってしまうのだ。本来ならば業務を効率化するパソコンが逆にネックになってしまっているというのは皮肉なものだ。
この日も翌日提出予定の書類を仕上げるため、馬場さんは朝からパソコンと格闘していた。どうも画像処理と貼り付けに手間取っているらしい。さらに文字変換などのタイプ打ちもかなり遅い。既に時刻は16時を回っている。要は定時まであと1時間。とても終わりそうにない。
私はしばらくの間馬場さんの仕事ぶりを見ていたのだが、やはりテクニックだけの問題らしい。「コピー&ペーストもマウスの使いようでもっと早くできるのに・・・」などと思って見ていたが、そのうち見るに忍びなくなって声をかけたのだ。

この日作成する書類はX社に提出する解析報告書。馬場さんにとってはこの手の解析は赤子の手をひねるような簡単な仕事だ。解析を開始してから1時間で壊れた原因を探り当ててしまった。それが3日前・・・。そして報告書を作り始めてから3日が経過しようとしているわけだ。
「そうそう、ここをドラッグしてから右クリック・・・そうそう、これで画質変換できるんです」
馬場さんはずっと年下の私のことを嫌な顔一つせず上司として立ててくれる素晴らしい先輩だ。こういうところで恩返ししなければね。
「ドラッグすると文字が反転しますよね、そこで一度左クリックを外して矢印になったところでそのまま持っていきたいところに・・・そうそう!簡単でしょ?」
やっぱり単純にテクニックを知らなかっただけのようだ。コツさえつかむと馬場さんはあっという間に使い方をマスターして報告書を仕上げてゆく。まあ文字打ちは右手人差し指しか使っていないのだが、そこまで求めるのは酷というものだろう。
「課長、ありがとうございます。これなら順調に定時までに終われます」
「よかった。あとは任せますね。よろしくお願いします。」
軌道に乗ったところで私も自席に戻って自分の仕事を始めることにした。
「あ、そうそう、馬場さん!ファイルセーブはこまめにした方がいいですよ。」
これ、結構重要なんだよな〜。
しかし馬場さんの目は一心不乱にモニターに向かっていてこちらの話は聞こえていないようだった。
まあ、わかっているだろう・・・。

17時になって馬場さんがようやくモニターから目を上げた。私と目が合うと頷いた。
「出来ましたか?」
「はい。一度確認していただけますか?」
私は馬場さんの席に向かうと背中からモニターを覗き込んだ。さすがベテランだけあってしっかりと要点を捉えた報告書になっている。これならそのまま提出できるだろう。
「お疲れ様でした。さすがの出来栄えですね。」
「課長に助けていただいて助かりましたよ。」
「じゃあ、プリントアウトして決済して送っちゃいましょう」
「はい」
馬場さんは一度印刷すべく「ファイル」の文字にマウスを持って行ってクリックした。その時鼻がムズムズしたのだろうか?一度大きなくしゃみをした。画面には「はい」と「いいえ」の文字が並んでいる。そこで馬場さんは何を思ったのか「いいえ」をクリックした。次の瞬間、開いていたアプリケーションソフトが終了した。
「あの〜、印刷せずに終了しちゃうんですか?」
私は恐る恐る聞いた。馬場さんの目は固まっている。
「馬場さん?」
呆然とした馬場さんは一言つぶやいた。
「消してしまった・・・」
「ええっ!」
そう、くしゃみした瞬間に「閉じる」をクリックし、さらにファイルセーブについて尋ねられた時に「いいえ」を押してしまったのだ。
「でも、こまめにセーブしていれば最後の更新以外は保存されているから大丈夫ですよ。」
馬場さんはまだ固まっている。
「セーブって・・・保存のことなんですね」
・・・しまった、ちゃんと日本語で伝えておくべきだった・・・
 

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