Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

当ホームページは[Bloody]の完全なる自己満足の世界で成り立っております。
読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story2〜

Button

私の課では毎朝朝礼がある。前日のトピックス、その日の予定など、各自が重要な報告をここで行うことになる。もちろん全員に話す機会を与えるため、何も報告がなくても各自が一言は話すことになるのだが、重要な出来事があるメンバーは最初に手を挙げて報告することになっている。

その日は前日の出張者が多くて報告が長引いた日だった。正直、朝礼は10分以内に終わりにしたいものだが、5人も出張者がいたとなるとそうはいかない。延々と続く報告にちょっと嫌気がさしている中、最後の出張者の報告になった。
「じゃあ、最後は品川係長かな?」
ちょっと立っていることに疲れながらも私は彼の話を真剣に聞くべく居住まいを直した。なんと言っても課長だからね。
彼は新製品の立ち上げ支援で外注先の工場に2日間出張していた。今回のモデルは初めて取得できた車種への導入機種なので、品川係長に直接現場支援に行ってもらったというわけだ。
「はい。では報告します。私は2日間栃木の工場に出張していました。順調というわけにはいかず、結局生産途中で打ち切って帰ってきました。」
ん?その話は初耳だぞ?
「ん?生産止めたのか?昨日まで何も連絡が入ってなかったよね・・・」
「はい。最後の最後、昨日の夕方にトラブルが出ました。技術的には難しくない機種なので順調に生産していたんですが、最終検査工程で問題が出まして、そのまま作っても出荷できませんので私の判断で止めました。」
こいつもなかなか現場判断できるようになったじゃないか〜。よしよし。
「そうか、それでそのトラブルは?」
「ボタン動作せず、です。この機種のボタンはヒンジ構造になっているのですが、ボタンを押しても
引っかかって戻ってこないんです。ヒンジのところにグリスを塗ったり、ボタンの一部を削ったりしてみたんですが、結局解消しませんでした。」
どこのボタンだ?
「設計はなんと言っているんだ?」
「根本的な問題だから簡単には直らないと。ですから今回はいったん生産を止めて、大至急対策パーツを用意して客先納品分は手直しすることにしました。」
だからどこのボタンなんだ?
「ふ〜ん。ところでボタンボタンって言っているけどどこのボタンの話をしているんだ?同じ構造ならほかのボタンもまずいんじゃないのか?」
「あの〜、今回の製品にはボタンが一つしかありません。」
「・・・・・・」
「あっ、そう〜・・・たった一個・・・」
一瞬、朝礼の場が静まり返った。
馬場さんがぼそっと一言。
「一個しかないボタンを動かないように設計できるってのはある意味特技だな。」
「・・・・・・」
それをきっかけにドッと笑いが広がった。
「笑い事じゃないけど笑っちゃうな。ところで設計者は誰なんだ?」
「鶯谷君です。彼、初めてエスカッション部分の設計を任されたんですよ。」
そうか。まあ、いい経験だな。
「奴はいい設計者になると思うぞ〜。なんと言っても一個しかないボタンが動かない設計ができるんだからなあ」
んなわけねえじゃん。絶対にブラックリストに載せてやる。

それから1年が経ったある日。新製品の構想検討会に出席していた品川係長が血相変えて私のところにやってきた。
「課長!今度の新製品のエスカッションなんですけど」
「ん?どうしたんだ?」
最大限の嫌な予感が走っていた。
「鶯谷君が設計するんだそうです!」
やっぱり・・・。
「ん?いくら彼だって1年経っているし、前のモデルの経験もあるから今度は大丈夫だろ?」
言ってはみたものの私に自信は1%もない。
「それが・・・今度の新製品はボタンが三つもあるんですよ!」
散った・・・・。
そこで、 馬場さんがぼそっと一言。
「動かない確率が3倍ってことか。」
・・・勘弁してくれよ・・・

メニューへ

inserted by FC2 system