Bloody's Tea Room
Team SPIRITS Web Master 「Bloody]の趣味の世界へようこそ

2018/02/18 15:32更新 

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読者の皆さんも喫茶店感覚でお楽しみください

 

〜Story3〜

5S

「というわけで、今後は5S強化ということで毎月コンサルタントの先生をお呼びして、全社を挙げて推進するということになりました。」
大崎女史がてきぱきと課員に対して報告していた。社内の5Sがなっていないということが工場長の逆鱗に触れ、総務部が全社活動として5Sを推進していくのだそうな。
ん?5S?別にセクハラ5つとか説教5回とかそういうもんではなく、せんべい5枚とかシャツ5枚パックの略でもない。5Sとは整理、整頓、清掃、清潔、しつけの頭文字Sが5個という意味。製造業ではこの5Sをきちんと守り、わかりやすいところにわかりやすいものが整然と配置されていることで無駄をなくそうという取り組みをしているわけだ。でも、実験室などはそれはもう倉庫だかゴミ置き場だかわからないくらい乱雑にモノが置かれているし、事務所の机だって前の人間の顔が見えないくらい書類が積まれているやつもいる。それを視察した工場長が「こんな職場ではいい仕事ができるわけがない!」と言ったとか言わないとか・・・。
かくして「社内5S委員会」なるものが発足し、各課1名の代表者を出せという話が来たのが先週。我が品質管理6課からはルールに厳格かつ公正な「氷の女」と呼ばれる大崎女史を5S委員に任命したというわけだ。大崎女史の名誉のために言っておくが、決して彼女はメガネババアでも肝っ玉母ちゃんでもない。うら若く・・・はないが「見てくれは」美女である。そして昨日の午後に第1回目の会合が行われた結果を、本日の朝礼で展開しているということになる。長い前置きだった・・・。

「ですから、今後は毎月1回、給料日の定時10分前に課内5S監査を実施します。給料日に決まった理由は完全定時退社日だからです。基本的には机の上は何もなく、実験室の機材も長期試験中のものにはきちんと明示をして定時を迎えるようにしてください。」
いつもながら有無を言わさない007のMのような声が響き渡っていた。
「すると、今机の上にあるペン立てとかノートパソコンはどうするんですか?」
怖いもの知らずの高田さんが早速突っ込みを入れた。見渡してみると・・・一番汚いのは高田さんの机だ。これを自己防衛機能という。
「筆記用具や事務用品は一番上の引き出し、3番目に保管資料、2番目が私物ですのでそれに従っていただきます。パソコンは2番目の引き出しにしてください。」
氷の女はにべもない。
「うわ〜、書類とかたくさんあるよ〜」
「書類が積んであるということは、仕事が終わっていないという証拠だとみなされます。足の上の長い引出しが仕掛書類。そこに入りきらないような仕事は処理し切れていないとみなせと言うことです。ね、課長。」
いきなり私に振るのか〜?
「そうだな。まずはルール通りにやってみるしかないだろう。そこであぶれているということは、能力以上の仕事を俺が与えているということになるんだから。」
課員はこの一言で一応納得したらしい。そこに氷の女がとどめを刺した。
「ちなみに5S監査でルール違反があったら、その持ち物は無条件廃棄されます。」
場が凍り付いたことは言うまでもない。もしかして私は人選を誤ったのではないか?と思った。

その月の25日、私は仕事に追いまくられていた。前日に発覚した大トラブル。そして客先の緊急来訪。朝から晩までてんてこまいで自分の席に戻ったのは19時過ぎになっていた。もちろん給料日なので課員は全部帰宅している。事務所のフロアに一歩足を踏み入れた私は何か違和感を感じていた。なんとなく・・・空虚な感じ・・・
「ええっ!」
思わず私は叫んでしまった。誰の机の上にも何もない。書類もない。パソコンもない。ペン立てもない。もちろん「わたしのつくえも」だ!愕然と自席に腰を下ろした私の前には大崎女史の几帳面なメモが残っていた。
「上野課長、お疲れ様です。5S監査の日でしたので監査結果をまとめ、2番目の引き出しに入れておきました。ご確認ください。なお、課長が5Sルールを守られないと課員に示しがつきませんので、私が処理しておきました。では、お先に失礼します。」
・・・処理ねえ。ゴミ収拾センターにいって拾ってくるかな〜。・・・
私は力なく2番目の引き出しを開けた。5Sのチェックシートが10枚、私物の上に載っていた。ん?その下には・・・?
「やった〜!」
思わずまた叫んでしまった。5Sチェックシートの下には私のパソコン、書類、筆記用具が整然と並んでいた。
・・・大崎君、いいところあるじゃないか・・・
 

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